by Gartner
トーマス・ビットマン VP兼最上級アナリスト
亦賀 忠明 VP兼最上級アナリスト

 クラウドコンピューティングが約束するコスト削減の可能性や負荷に対する弾力性といったメリットは、非常に魅力的だ。しかし、企業外クラウドはまだ、準備が整っているとは言い難い。今後数年間は多くの企業が、企業外クラウドと同様のメリットを備えた「企業内クラウド」を開発する。それが企業外クラウドへの足がかりとなる。

 ガートナーはクラウドを「スケーラブルかつ弾力性のあるITによる能力を、インターネット技術を利用して、サービスとして外部顧客に提供するコンピューティングモデル」と定義する。企業内クラウドの定義は「外部顧客」が「企業内」に変わるだけだ。

 現在、企業が必要とするITサービスのすべてが、企業外クラウドによって提供されているわけではない。あったとしても、成熟度が低かったり、サービスレベル要件や規制・法務要件を満たしていなかったり、セキュリティが不十分であったりするケースが大半である。企業外クラウドがこれらの要件を満たすには、時間がかかる可能性がある。企業外クラウドの成熟が遅いと見込まれる場合は、企業内クラウドへの投資が合理的となる。

 クラウドコンピューティングによるスケールメリットや効率は、企業の規模が大きいほど向上する可能性がある。IT設備の規模が小さい小規模企業では、企業内クラウドはあまり役に立たない。

企業内クラウドのメリット

 企業内クラウドのメリットは企業外クラウドと同じだが規模が異なる。

参入障壁の低さ:仮想化と自動化によって実現するサービス指向のインタフェースによって、顧客はサービスを素早く簡単に入手できる。

スケーラビリティと弾力性:仮想化と自動化を施された共有アーキテクチャが、顧客が設定したポリシーに従って顧客のニーズに素早く対応する。

コストの低さと従量制料金:共有アーキテクチャは効率が高く、大企業はスケールメリットを実現するテクノロジを活用できる(ただし、大手の企業外クラウド事業者ほどのスケールメリットはない)。

ソーシング移行の容易性:サービス指向のインタフェースをうまく運用すれば、企業内と企業外クラウドの両環境間でのサービス移行が容易になる。

企業内クラウドのデメリット

 企業内クラウドを開発する当事者である利用企業は、企業外クラウド事業者が直面するのと同じリスクも引き受けなければならない。

テクノロジとスキルに対する投資の欠如:クラウドプラットフォームの開発には、ハードウエアやソフトウエアに加えて、サービスの開発と提供をサポ ートするベストプラクティスに対する投資が必要だ。企業外クラウドの動向にも気を配り、ROI(投資対効果)を見極める必要がある。

クラウドサービスを開発するテクノロジの欠如:米グーグル、米マイクロソフト、米アマゾン・ドットコム、米セールスフォース・ドットコムといった事業者は、クラウドに対応するソフトウエアをカスタム開発している。グーグルはハードウエアも自社で設計・開発する。こうしたテクノロジ(仮想マシン管理ツールなど)は徐々にパッケージ化されているが、必要なテクノロジの多くは市販されていない。

ガートナーの結論

 利用企業が企業内クラウドに適切に投資をしていれば、企業外クラウドが成熟した場合に、必要に応じて段階的にそれを利用することが容易になる。企業外クラウドが多くの企業のニーズを満たせるようになるには長い年月を要する。2012年末までは、IT部門が企業外クラウド事業者のサービスを購入するよりも、企業内クラウドへの投資を優先する可能性が高い。