ファシリテーション・テクニックを極める当研究所。現場で培ってきた数々のテクニックやノウハウの中から、即効性があるツールを紹介しています。第13回と第14回は、「R&R(Role and Responsibility:役割と責任)と期待値の設定」を紹介します。今回はRACIチャートという、役割と責任を明確にするためのツールを紹介し、認識のズレの潰しこみやプロジェクト期間中の期待値の再設定について説明します。

RACIチャートで役割と責任を明確にする

 ここからは役割と責任を明確にするためのツールとして、RACIチャートをご紹介します。RACIチャートとは、作業ごとの役割を明記した表のことです。役割には「責任者(Accountable)」「担当者(Responsible)」「意見を聞く人(Consulted)」「情報共有すべき人(Informed)」があります。各役割の頭文字をとってRACIチャートと呼びます(表)。

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 RACIチャートを使えば、各作業について責任者と担当者、意見を聞く人、情報共有すべき人を明確にすることができます。プロジェクト初期段階だけでなく、プロジェクト中に、必要に応じてR&R、期待値の設定を再確認するために利用します。

 RACIチャートを使うメリットは大きく二つあります。一つは責任の所在が明確になることです。複数メンバーで実施する作業の場合、往々にして最終的な責任を持つ人が誰なのか曖昧になりがちです。そのような場合、責任者と担当者を明確に区別すれば、曖昧さを排除でき、責任者の自覚を促すことができます。もう一つのメリットは、確認漏れの防止です。自分が行っている作業は、誰の情報を必要とし、誰の確認を必要としているかが意識できます。

認識のズレを潰し込む

 ここからはR&R、期待値の設定をする際に起きる、認識のズレをどのように潰し込むかを順に説明していきましょう。

(1)既に存在する認識のズレを明確にする
 認識や理解の違いに対応するための第1歩は、異なる認識や理解が存在することを認めることです。例えば次のような場合です。

●プロジェクトメンバーの言っていることが理解できない。
プロジェクトマネジャーAさん:業務担当のBさんはいつもシステムの処理速度ばかり気にする。今は機能の話をしているのに
業務担当Bさんの心の中:昔のシステムで稼働直後に5時間も処理が終わらず、何度も休日出勤した。あの経験は二度としたくない