経営・業務部門が取り組む改革・改善プロジェクトにおいて、IT部門は「IT視点のコンサルタント」としての活躍が求められる。そして今、経営改革手法の一つである「シックスシグマ」が再び、注目を集めている。企業会計に代表される法令順守(コンプライアンス)から、情報漏洩を防ぐセキュリティの強化、環境対策など、そのいずれの実現にも経営資源である「人材」の育成・活用が、最重要課題になってきたのが理由である。

 シックスシグマは1980年代に、米モトローラが生産プロセスを改善するために、日本のTQC(総合品質管理)を基に開発した。それを90年代に、米GE(ゼネラル・エレクトリック)が、全社業務プロセスを改善するために適用し大きな成果を上げたことで一躍、脚光を浴びた。現在、シックスシグマで特に期待されているのは、自律的に業務改革を推進できる人材を体系的に育てることである。

 本連載では、企業競争力強化とマネジャー育成を目指してシックスシグマを全社展開する大手総合電器メーカーFN社を舞台に、シックスシグマの概要と、シックスシグマ・プロジェクトにおけるIT部門の役割を、ストーリー形式で解説する。

 舞台となるFN社は今年度から、全社でシックスシグマに取り組み、プロジェクトの推進部門として「シックスシグマ革新部」を設置した。主な登場人物は、以下の7人である。

●今回の登場人物●
情報化推進部:小笠原執行役員CIO(最高情報責任者)、村上部長、小谷サブマネジャー、門馬部員、鈴木部員
シックスシグマ革新部:浅田トレーナー
広報部:藤田サブマネジャー

 主役は、小谷サブマネジャー。“速い、安い、使える”をモットーにするFN社のIT部門「情報化推進部」に所属する。シックスシグマ・プロジェクトにかかわることになった彼女の成長を追うことで、社内の複数部門が参画するシックスシグマ活動がどのように展開していくのか、IT部門はどう参画すべきかを理解して欲しい。それでは、FN社内に視点を移そう。

 FN社の情報化推進部では、小笠原執行役員CIOが、今期の方針を部員に伝えている。

小笠原 ・・・このように、経営革新の一環として全社的に「シックスシグマ」が始まりました。これは単なる品質改善活動ではありません。情報化推進部からは、小谷さんがシックスシグマ革新部でトレーニングを受けていますが、他人ごとと考えず、皆さん一人ひとりが競争力のある仕事の仕方を考え、「FN流」を確立していってください

 小笠原CIOに名前を挙げられた小谷さんは先ごろ、上司である村上部長の推薦を受け、推進部から一人、シックスシグマ・プロジェクトの専任者に指名された。昨年まで、ERP(統合基幹業務システム)導入に携わっていた彼女にすれば、シックスシグマ専任は実はショックだった。「ラインから外されたのかしら?」と懐疑的だったからだ。小笠原CIOの演説の後、さっそく門馬部員が小谷さんに近寄ってきた。