JR東日本の駅売店「KIOSK」とコンビニエンスストア「NEWDAYS」が変わった。運営するJR東日本リテールネットがトップダウンで現場改革を断行したからだ。象徴的なのはPOS(販売時点情報管理)レジを導入したKIOSKでの手売りの廃止。スピード会計よりも笑顔重視の「CS(顧客満足度)経営」に意識を転換させた。 (文中敬称略)<日経情報ストラテジー 2008年3月号掲載>

プロジェクトの概要
 JR東日本の駅にある売店「KIOSK」は2000年以降、危機に直面していた。KIOSKの「三種の神器」といわれたたばこと新聞、雑誌の3つが、健康志向やインターネットと携帯電話の普及、団塊世代の引退といった社会環境の変化に伴って、売り上げを落とし始めたからだ。駅構内という好立地に支えられた「商品を置けば売れる」という旧来型のビジネスには陰りがみえた。これではKIOSKで働く社員の高い人件費をまかなえない。かといって、KIOSKの名物であった「売店のおばちゃんの素早い手売り」は職人芸の域に達しており、若いアルバイト店員には簡単に引き継げない。KIOSKを運営するJR東日本リテールネット(東京・新宿)はKIOSK事業の抜本的な見直しを迫られる。出した結論は懸案だったKIOSKへのIT(情報技術)導入と意識改革、そしてKIOSKに代わるコンビニ業態「NEWDAYS」への経営シフトだった。
JR東日本の駅にあるコンビニエンスストア「NEWDAYS(ニューデイズ)」。右は、POS(販売時点情報管理)レジの導入が完了した駅売店「KIOSK(キオスク)」 (写真:山西 英二、以下同)
JR東日本の駅にあるコンビニエンスストア「NEWDAYS(ニューデイズ)」。右は、POS(販売時点情報管理)レジの導入が完了した駅売店「KIOSK(キオスク)」 (写真:山西 英二、以下同)
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 「あえて苦言を言わせていただく。君たちは、病んだマンモスだ」

 2005年6月、駅売店「KIOSK(キオスク)」を運営するJR東日本リテールネット(J-リテール、当時の社名は東日本キヨスク)の親会社である東日本旅客鉄道(JR東日本)の副社長からJ-リテールの社長に転じた夏目誠は着任早々、社員を集めてこう言い放った。これには社員は驚きを隠せなかった。

 マンモスとは、環境の変化に適応できずに滅びゆく運命にある大型動物の象徴で、夏目はJ-リテールをそのマンモスになぞらえた。しかも、そのマンモスは体をむしばまれている。ボロボロの状態ということだ。夏目の目には、そう映った。

 「この会社は変化対応能力が弱過ぎて、立ち遅れている。にもかかわらず、危機意識が乏しい」

 典型的な大企業病に陥っているということだ。病状の悪化に伴って、1990年以降は主力のKIOSK事業が売り上げを落とし続け、2000年代に入ると減少傾向が顕著になった。中でも、たばこに新聞、雑誌の3つの売り上げの落ち込みは激しく、三大商品の2006年度の売上高は2001年度の60~70%の水準まで下がっている。

 夏目の前任の社長は紙の伝票が飛び交っていた社内システムにメスを入れ、初めてIT(情報技術)で経営の立て直しを図った。しかし、それだけでは不十分だった。最も肝心な社員の意識が旧態依然のまま変わっていなかったからだ。夏目は「意識改革こそが自分の役目だ」と、腹をくくった。