シックスシグマは、健全な試行錯誤によって課題解決を実行するツールである。顧客の視点にたって課題を解決する経営改革手法であると同時に、自律的に業務改革を推進できるリーダーを育てられるとして期待されている。本連載では、企業競争力強化とマネジャー育成を目指してシックスシグマを全社展開する大手総合電器メーカーFN社を舞台に、シックスシグマの概要と、シックスシグマプロジェクトにおけるIT部門の役割を、ストーリ形式で解説する。

経営改革手法は“魔法の杖”ではない

 まるで音を立てんばかりの勢いで急激に経営環境が移り変わる中、会社組織で働くビジネスパーソンのみなさんには、実際に何を求められているのか、もはや自ら考える余裕すらも与えられていないのかもしれない。

 かつて磐石のモノづくりに支えられていた日本企業は、津波のごとく押し寄せたグローバル化によって、生き残りをかけた事業形態の取捨選択にさらされている。中国、インドといった新興国とはコストで戦い、先進国とは技術優位性とスピードを競うことが常態化した。

 目標のハードルを上げ続けることによる達成感のなさが、組織を疲弊させる。その結果として起こっている最も大きな弊害の一つが、「何かにチャレンジすることはリスクだ」という保守的な“引きこもり感覚”の蔓延にほかならない。

 もちろん経営トップは、危機感を持って「会社が変わること」を声高に訴えている。だが、社員には虚ろにしか響かない。そこには改革の対象を正しく見定めもせずに、とにかく現状を変えさえすればなんとかなるといった安易な発想が透けて見えてしまうからだ。

 壁に飾っただけの社是社訓や企業ビジョンと同様、経営の意図や志がダイレクトに伝わらなければ、社内改革など到底おぼつかない。ましてや“正”がつかない社員には、まったくいわれのない押し付けにしか聞こえないだろう。

 忙しすぎる現場メンバーの良識に頼るだけの業務改善など、もはや風前の灯火に過ぎない。れっきとした“職務”として与えられ、きちんと人事評価される仕事でなければ、だれ一人としてやりたがらないのが現実だからだ。様々な経営改革手法を、とりあえず導入すれば一時的な効果を生む“魔法の杖”だと勘違いして、しっかり組織に根付かせてこられなかったツケが、今回ってきたようにさえ見受けられる。

 それでも存続のために企業価値を高め、雇用を維持し続けていくには、自らを改革する努力を怠ることはできないことを自覚しなくてはならない。

再び注目を集める「シックスシグマ」

 高度にIT化が進んだ21世紀においても、人が主役の組織である限り、うまく仕事をするために必要なマネジメント能力やチームを率いるためのリーダーシップは不変的である。そして、仕事のやり方や仕組みを変えるための改革手法も本質的には変わりはない。とはいえ、時代とともに、その担い手や呼び名は変わってきた。

 例えば、1世紀余り前に欧米で、科学的工場管理法の創始者であるテーラーや、統計的分析手法の提唱者シューハートらによって、科学的な経営管理アプローチが提唱された。それが戦後、デミングらにより、QC(品質管理)として体系的に日本企業に広められた。デミング氏は、日本企業にQC活動を広めた最大の功労者となる。