NTTコムとNTTデータは,SaaS基盤共通機能群を外部に提供することで見込める売り上げ目標を,それぞれ「3年後に100億円」としている。一方,グループの中期経営戦略では,同時期にほぼ10兆円に上るグループ全体の収益のうち,75%をIP系とソリューション系で稼ぐことを目指している。対比すると,SaaS基盤の事業規模はとても小さく見える。しかし,「利用料だけで見ると大きな金額ではないが,SaaS基盤がネットワーク回線の販売やソリューション事業など他の事業の販売に貢献する効果は大きい」(宇治副社長)と,期待する。

 事業会社では,SaaS基盤をネットワークやソリューションの販売につなげるため,組織体制を変更して営業を強化する方針だ。NTTコムは6月に,「ブロードバンドIP事業部」と,「ユビキタスサービス部」を統合し,法人向けネットワークを一元的に提供する「ビジネスネットワークサービス事業部」を設置した。アクセス系とVPN系の統合によって,回線の種類によらずセキュアなSaaSを販売できる。

 NTTデータは4月に,地図コンテンツ配信のSaaS「MaDoRE」を運用していた「位置情報サービス・ビジネスユニット」を,「サービス&プラットフォーム・ビジネスユニット」という名称に変えた。社内に分散していたSaaS基盤をこの部署に統合する。SaaS開発の効率性を高め,SI案件でSaaSを提案しやすくする狙いだ。

中小規模へのSaaS展開に東西も合流へ

 大企業から中堅企業をユーザー層とするNTTコムとNTTデータには,中核となるSaaS基盤ができたが,グループ全体では,中小企業に対するリーチが手薄のままだ。ここでは中小企業層に強力な営業力を持つNTT東西が今後SaaSにかかわっていくのは間違いないだろう。

 三浦社長も,「SaaSの拡大では基盤整備も重要だが,信頼性,安全性を強化するためにはNTT東西のNGNをうまく活用していくことも大事だ」と,NGNとSaaSの連携を強化する方針を明言する(図1)。

図1●クラウド・サービスのフルラインアップ化に向けNTT東西の参画も計画中<br>SaaS市場を拡大するには中小企業のマーケットや個人向けのサービス開拓も欠かせない。NTT版クラウドの完成図にはNTT東西によるSaaS事業参入も想定に入っている。
図1●クラウド・サービスのフルラインアップ化に向けNTT東西の参画も計画中
SaaS市場を拡大するには中小企業のマーケットや個人向けのサービス開拓も欠かせない。NTT版クラウドの完成図にはNTT東西によるSaaS事業参入も想定に入っている。
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 既にNTT東日本は,フレッツ光回線と組み合わせて使う診療所向け電子カルテのSaaS,「Future Clinicワープ21」の販売を手がけている。このサービスの運営主体はNTT-MEで,NTT東日本は販売を受託されている形を取っている。だが,こうした動きは東西地域会社のSaaS参入の布石になっているようだ。

 NTT東西がSaaS基盤に合流すれば,その次の段階として,個人や家庭を対象とした“NGN版クラウド”の構想も動きだす。

 NTT東西は,伸び悩む通信サービス収入を補完する柱として,「ホームICT」事業の強化を打ち出している。現時点では,パソコンやネット対応家電の接続設定といった遠隔サポートが中心だが,クラウド技術を活用すれば,高度なネットワーク・サービスを開発できる。家庭からデジタルカメラの画像を遠隔地のテレビに映したり,医療機関と連携したヘルスケア・サポートを自宅で受けるといった,NGNのショールーム「NOTE」で展示しているサービスの商用化が現実になりそうだ。