2009年10月、宮崎県都城市にある農業生産法人、新福青果の大根畑は収穫期を迎えている(写真1)。その一角に、Webカメラや無線LAN通信装置を組み合わせた実験装置が設置されている。農作業のノウハウを“見える化”に必要なデータを収集するためのセンサーである。カンや経験に頼ってきた農作業を生産技術として蓄積・継承することで、農業の再生を目指す。
このセンサーの高さは、優に2メートルを超える(写真2)。2009年4月から、富士通との共同実験の一環として設置した。Webカメラで、農作物の色の変化や、害虫などによる影響を記録するほか、畑の土壌の中に埋め込んだ各種のセンサーともつながっている。
土壌内に埋め込んだセンサーは、温度センサーや、湿度センサー、pHセンサー、風速センサーなど約10種類。土壌の温度や湿度、pH値などを計測し、そのデータを無線を使って、新福青果の事務所内にあるPCに10分ごとに送信する。畑の撮影画像とともに、その状態を畑ごとにデータベースに保存する(写真3)。新福青果は現在、280カ所以上の畑を持っている。現在は、うち5カ所をこのシステムを使って監視中だ。
儲からないからと若手が転出
新福青果が、富士通との共同実験で目指すのは、畑の“見える化”だ。ITを使い、農作業の手順や各種のノウハウを体系化し蓄積することで、農業経験者でなくても農業に携われるようにするのが狙いだ。
“見える化”に取り組む理由について、新福青果の新福秀秋社長は、「高齢化が進み、ベテラン農家が培ってきたカンや経験が急速に失われつつある。一方で、若い就農者が儲からないことを理由に他業種へ転じることも少なくない。生産技術をどう継承し、“儲かる農業”をどう確立するかが大きな問題だ」と説明する。