富士通とNECが中堅企業市場の開拓強化に向け、グループ内の事業再編に乗り出した。両社とも今までは本体だけでなく、グループの子会社にも中堅企業向けの営業部隊を抱えており、役割分担が明確になっていなかった。

 中堅企業市場は、国内企業のIT投資全体の約3割を占めるといわれる。グループとしての中堅企業向けの営業体制を整備できていなければ、オフコン時代に築いてきた顧客を失いかねない。この市場を守るためにも、グループを挙げた新しい営業体制が必要だったのである。

 富士通は10月から富士通ビジネスシステム(FJB)に、NECは10月にNECネクサソリューションズに東名阪地域の中堅企業向けの営業部門を統合。東名阪以外の地域の営業機能は本体が担当する。子会社にあった大手企業向けの営業は本体が受け持つ。

 さらに富士通は、FJBの上場を廃止して10月に100%子会社化する。中堅企業向けの販売パートナーであるシステム販売会社に対する支援部隊は、FJBに移管していく。

 FJBとNECネクサソリューションズは共に中堅企業市場の開拓を目的にしてきたが、ここ数年の売り上げは伸び悩んでいる。

 FJBの売上高は、1500億円前後で推移している。2001年4月にグループ会社5社を合併させたNECネクサソリューションズの売上高は、誕生から今まで1200億円前後の状態が続く。

 国内IT市場が右肩上がりだった時代は、従来の体制でも良かった。だが数年前から、FJBやNECネクサソリューションズの営業活動が有望な顧客に集中し、一部では本体と重なるようになっていた。1社当たりの売り上げがそれほど見込めず、本来の目的だった中堅企業市場の開拓が、両社ともおろそかになっていた面があった。

 営業体制の再編だけでなく、富士通やNECは子会社のサポート体制も含めて、グループで提供する製品やソリューションの強化も推進している。

 「中堅企業向けの市場で高いシェアを持つ製品やソリューションはない」(NECネクサソリューションズの森川年一社長)という現状を打破するためだ。

 まずは、製品やソリューションのデータベース化の推進である。

 両グループとも、中堅企業向けに多くの製品やソリューションを持っている。だが、これまでは「グループ内のどこにいい製品やソリューションがあるのか簡単には分からない。製品やソリューションの情報が共有できていなかった」(FJBの鈴木國明会長兼社長)といった声があった。データベース化で、機能的に優れた製品やソリューションが“宝の持ち腐れ”になることを減らす。

 中堅企業向けのERP(統合基幹業務システム)事業も、強化していく。

 富士通は、ERP製品「GLOVIA smart」の企画や開発組織の一部を、10月にもFJBに移管していく計画である。機能強化を図り、より競争力の高い製品にするという。

 NECは、NECネクサソリューションズに企画や開発の組織は移管しないが、両社の間で開発部門などの連携を高める。例えば、NECネクサソリューションズが独自に開発しているホテル業界向けのアプリケーションなどと、NECのERP製品「EXPLANNER」の間でデータ連携しやすくする。

 さらに両社とも、製品やソリューションのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)化に積極的に取り組む。初期投資が低いSaaSのほうが、中堅企業の潜在的ニーズは高いと見ているからだ。SaaS化に向けて、標準のアプリケーション基盤や開発フレームワークなどを用意し、ここに製品やソリューションを移行させていく。

 中堅企業市場の開拓に向けた、こうした数々の施策はまだ始まったばかり。両社がどこまで実行できるか注目したい。