自動車などに通信システムを搭載し,リアルタイムで情報を提供する「テレマティクス・サービス」が韓国で動き始めた。現代自動車と提携したKTが,韓国の通信事業者としては初の商用サービスを2009年6月に開始。SKテレコムも,ルノーサムスン自動車と組んで2010年以降に商用化する計画だ。

(日経コミュニケーション編集部)


亀井 悦子/情報通信総合研究所 研究員

 既存のサービス市場が飽和段階に入った国や地域の通信事業者は,国内外を問わず新たな市場の創出が課題となっている。韓国では,政府が造船や建設,自動車などの伝統的な産業のIT化,融合化を奨励しており,関連の政策も発表された。こうした状況の中で,KTが現代自動車と提携し,韓国の通信事業者では初となるテレマティクスの商用サービスを開始した。

携帯電話で車両を遠隔診断・制御

 KTが現代自動車と共同開発した「SHOW現代自動車モバイル・サービス」は,2009年6月,韓国最大規模のIT専門展示会「World IT Show 2009」で発表された(写真1)。携帯電話の遠隔操作によって車両を診断・制御するサービスで,ドア,トランク,サイドミラーの開閉や,エンジン,変速機,冷却水,エンジン・オイルなどの状況診断を行い,車両の異常の有無をリアルタイムで確認できるものだ。また,エコ・ドライブ機能も備えており,運転者の走行習慣を分析し,エコ・ドライブや安全運転のレベル確認や平均速度などの運転データを見ることもできる。

写真1●「World IT Show 2009」でKTが発表した「SHOW現代自動車モバイル・サービス」(左)とMOCHIPの挿入場所(右)
写真1●「World IT Show 2009」でKTが発表した「SHOW現代自動車モバイル・サービス」(左)とMOCHIPの挿入場所(右)

 このサービスは,現代自動車が既に提供中のカーナビゲーション・ベースのテレマティクス・サービス「MOZEN」を基にしている。「MOCHIP」と呼ばれる機器を車内の故障診断システム(OBD-II:On Board Diagnosis-II)と接続し,MOZEN対応の携帯電話でモバイル・サービスのアプリケーションを実行。MOCHIPで収集した車両データや交通情報,最寄りのガソリン・スタンドの価格情報などを携帯電話の画面で確認する(図1)。現在,対応可能な端末は韓国サムスン電子製の携帯電話機2機種だけだが,年内には5機種にまで拡大する予定だ。

図1●SHOW現代自動車モバイル・サービスの概要
図1●SHOW現代自動車モバイル・サービスの概要
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 MOCHIPは現代自動車の既存の3車種に搭載されており,2009年下半期に発売される新車すべてに搭載する計画である。

SKテレコムも2010年以降に商用化

 世界のテレマティクス市場は,2010年に1兆5000億円規模に拡大すると予測されている。これは2006年の約2倍に当たる。その急成長ぶりに注目が集まり,日本や欧米各国がテレマティクス・サービスの開発や普及に力を入れている状況だ。

 テレマティクス市場は,機器を自動車に装着する時点がいつかによって市場が分かれる。自動車出庫前に搭載される場合を「ビフォア・マーケット」,出庫後の場合を「アフター・マーケット」と呼ぶ。日本や欧米各国ではビフォア・マーケットがアフター・マーケットよりも3~7倍以上大きく,この差はさらに拡大していくと予想されている。

 今回KTが始めたモバイル・サービスは,MOZENを基にMOCHIPを装着して車両を制御するという形で既存のサービスをアップグレードしたものである。このことから,アフター・マーケットのサービスに該当する。