都丸 岳行 氏
野村総合研究所 品質監理本部
生産革新推進部長
都丸 岳行 氏

 システム保守は開発と違って,華々しく「○○システム稼働!」と注目されることはまずない。そういう意味では地味な仕事だ。だが最近,その重要さが見直されており,IT系の雑誌で特集されることも増えてきた。

 システム保守エンジニアの仕事を一言で言えば「システム稼働後の安定稼働や機能追加を担う」こと。だが,その具体的な中身は多種多様である。顧客からの簡単な問い合わせ対応のようにすぐ終わるものもあれば,制度改正への対応のようにプログラムの改変が伴って1カ月以上かかる案件もある。稼働中のシステムで利用しているハードウエアのリース切れやソフトウエアのサポート期限切れがあれば,新しいものに入れ替える。突発的なシステム障害が起これば,たとえ深夜だろうと待ったなしで対応しなければならない。顧客からの要望やシステム障害などの報告を受けて,システム保守エンジニアの仕事が始まる。

 大変なのは,1人で何役もこなさなければならないことだ。野村総合研究所で保守エンジニアとしてのキャリアを積んできた都丸 岳行氏は,次のように指摘する。「システムを開発するときに数十人のメンバーがいても,保守になると数人になってしまいます。開発に比べて,1人のエンジニアがカバーする範囲が格段に広いのです」。

システムのデザイン力が鍛えられる

 突発的な対処が求められることが多いにもかかわらず,必要なドキュメントがそろっていないケースも多い。「開発時に作成したドキュメントでは,保守に必要な情報は網羅されていません。このため,システムを改変するときなどは,まず稼働中のシステムを調査することから始める必要があります」(都丸氏)。

 困難な状況に遭遇することが多いため,多くのシステム保守エンジニアは「常に案件のバックログを抱えています。どの案件から着手すべきか,プライオリティを考えながら仕事をしなければなりません」(都丸氏)。 このように大変な仕事だが,エンジニア個人のスキルアップという観点で見ると,システム保守エンジニアはとても収穫の多い仕事である。というのも,ほかのどの職種よりも“システムをデザインする力が鍛えられる”からだ。

 「例えば,データベースのテーブル構造が悪いと,後で必要な項目の追加もできないことがあります。システム保守エンジニアは,ほかのエンジニアが作ったシステムの中身を見る機会が多いので,劣化しにくいシステムの作り方が自然と分かるようになるのです」(都丸氏)。

 それだけではない。ITエンジニアの多くが苦手とする顧客の業務を学ぶのにも,システム保守エンジニアは格好の仕事である。

 「顧客と一緒に働く時間が長いので,彼らの業務に精通することができます。それに悩みも分かります。もちろん,システム改善など提案の機会も多いのです」(都丸氏)。

 今では都丸氏はむしろ「ITエンジニアは保守を経験しないとダメ」との信念を持つに至っている。都丸氏は「将来,プロジェクトマネジャーを目指すにせよ,コンサルタントを目指すにせよ,システム保守エンジニアは一度は通らなければならない登竜門だと思います」と話す。

お仕事解説:システム保守エンジニア

稼働中のシステムの面倒を見る

 情報システムは,稼働後のメンテナンスが欠かせない。ユーザーからの機能追加/変更に応じてプログラムを改変する,ソフトウエアベンダーが提供するパッチ(修正プログラム)を適用する,リース切れになったハードウエアを交換する,新たなセキュリティのぜい弱性に対処するなど,システム保守の仕事の幅は広い。それらを一手に引き受けるのが,システム保守エンジニアという仕事である。

必要なスキル

  • ITスキル
    システムを構成する要素技術全般。OSやミドルウエア,Webシステムの仕組みなどを知っておくことが必要。
  • コミュニケーションスキル
    新規開発より自由度が少ない分,要件をより的確に引き出すことが求められる。