アビームコンサルティング
フェロー
徳田 弘昭

 前々回は統制サイクルの不備,前回はビジネスシステムの不備という観点でIT統制の問題点を見てきました。今回は,その問題点を解決してビジネス全体の統制を効率よく,かつ経済的に実施できるようにする6つの仕組みについて説明します。

 今回はそれぞれの仕組みの概要を解説し,次回からそれぞれについてより具体的に説明していくことにします。

既存ツールや手法は「要素内」の管理・統制のみ

 まず,企業が管理や統制を進めるために使っているツールや管理手法の現状を見てみましょう()。

図●管理や統制のためのツールや管理手法の例
図●管理や統制のためのツールや管理手法の例

 この図は,企業がよく利用しているツールや管理手法を示しています。システム開発を支援する「ブロジェクト管理」や「構成管理」,システム運用を支援する「運用管理」,アプリケーションにかかわる「パッケージソフトウエア」に加えて,組織の戦略立案を支援する「商品ポートフォリオ」,業務プロセスにかかわる「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」などで構成します。

 規模の大きな会社は,ここで挙げた様々なツールや手法を利用しているでしょう。J-SOX(日本版SOX法)対応を目的として,組織や業務プロセスの統制や管理を支援するツールや手法の利用例も増えています。

 問題は,これらのツールや管理手法を利用しているにもかかわらず,企業の統制サイクルやビジネスシステムの不備が解消されていない点にあります。企業活動は“見える化”されておらず,前回説明した5つの断絶は残ったままです。

 その理由は,既存のツールや管理手法の多くはビジネスシステムの「要素」内の管理や統制を目的としているからです。ここでいう要素とは,前回見てきたような「戦略」「組織/業務プロセス」「アプリケーション」「開発・実装」「運用」などを指します。

 これらのツールや管理手法を使うことで要素内の管理や統制を効率化できても,ビジネスシステムの要素間の断絶が解消されるわけではありません。本来は,企業のトップが要素間の断絶を解消する責任を持っているのですが,「我が社の状況が見えない!」と言うだけで,具体的な解決策を提示できないケースが大半です。