富士通が国内業種別営業の徹底と、中堅・中小企業向け営業体制の見直しを進めている。5年前から手がける営業再編の仕上げとして、富士通ビジネスシステムを完全子会社にする。国内を固めた上でグローバル事業も強化し、2011年に過去最高の営業利益2500 億円を目指す。そのカギは現場の意識改革にある。

 「日本に軸足を持つ唯一のグローバルIT企業を目指す」。

 2009年7月23日に開催した富士通の経営方針説明会。野副州旦社長は、会社側が用意した中期経営計画の説明資料にある「真のグローバルIT企業」という言葉を、あえて「唯一のグローバルIT企業」と言い換えて熱弁をふるった。NECなど国内の競合大手への挑発とも受け取れる発言だ。

 富士通は、2011年度に本業の儲けを示す営業利益で過去最高益の2500億円を目指している。世界標準の製品力を武器に、世界市場の開拓による成長戦略を描く(図1)。一方で、「日本が盤石でなければグローバル化は目指せない」(野副社長)として、国内市場における顧客基盤の強化を併せて重要視している。

図1●富士通はグローバル標準のプロダクトと国内顧客基盤の強化で成長戦略を描く
図1●富士通はグローバル標準のプロダクトと国内顧客基盤の強化で成長戦略を描く
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 この顧客基盤の強化で重要なのが、国内営業力の向上である。そのためには、大手顧客はもちろん、中堅・中小顧客の基盤固めが欠かせない。こうした狙いから現在、富士通はグループ全体で営業体制の改革を進めている。2009年4月に実施した富士通本体の営業体制刷新と、中堅・中小顧客の基盤を持つ富士通ビジネスシステム(FJB)の完全子会社化の二つが柱だ。

 担当役員の広西光一副社長は「8月末をメドにFJB新体制の詳細を詰める」としており、近く富士通グループ全体の新たな営業体制の全貌が明らかになる。営業改革の現在の進捗状況を「20~30点」と自己評価する野副社長は「2009年度中に(営業改革に)ケリをつける」とする。

「Think Global, Act Local」

 富士通は今春から、製品およびサービス、海外子会社、国内子会社などのグループ体制を整理している。今後の成長が期待されるIAサーバーの分野では、2009年4月1日付で富士通シーメンス・コンピューターズを完全子会社化して富士通テクノロジー・ソリューションズとして新たに発足させた。一方で、ハードディスク事業を東芝と昭和電工に売却するなど、同社の強みと弱みを見極めた選択と集中を徹底して推し進めている。その上で、強みとなる製品・サービスを明確にし、これを世界で展開していく方針だ。

 世界標準の強い製品を用意し、これを活用して世界各国ごとに最適なソリューションを提供することで儲ける。この姿勢について、富士通は「Think Global, Act local」と表現し、中期経営目標の一つとして挙げている。つまり、両輪である強い製品作りと、各地域の営業力が重要なわけだ。

 富士通が日本に軸足を持つグローバルIT企業を標榜する以上、特に焦点となるのが国内営業の強化だ。国内の顧客基盤をより強固なものにすることで、世界有数な日本市場での売り上げ拡大を図るだけでなく、マイクロソフトやオラクルなどのグローバルIT企業と有利な条件で手を組み、国内でさらに競争力の高い製品・サービスを提供できるようになる。さらに、この協力関係を基盤にすれば世界で戦うことも容易になる。

 その国内営業改革の柱は、業種別営業の徹底と中堅・中小営業におけるグループ全体での体制の見直しである。同社はこれまで、業種別の営業と地域営業が並存している状況にあり、これが弊害を生んでいた。

 例えば、富士通の業種別営業と地方の営業が競合したり、さらにはパートナー企業との間で競合したりしてしまうという状況があった(図2)。顧客としては、富士通グループの営業が何人も何社も訪れて同じような提案をするため混乱の原因ともなっていた。これは富士通グループにおける各部隊が、自身の収益を追求するあまり、グループ全体のことにまで考えが及ばず、それぞれの“勝手営業”状態を生み出してしまったことを意味する。グループ全体で見たときに各社がバラバラの行動をしていては、グループで健全かつ効率的な営業を行えているとは言えない。

図2●旧営業体制のイメージ
図2●旧営業体制のイメージ
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