日本ヒューレット・パッカード 執行役員 EDS 事業統括 村上 申次氏
日本ヒューレット・パッカード 執行役員 EDS 事業統括
村上 申次氏

 ITを取り巻く今日の状況は厳しい。データ量が年率67%で増えているのに90%の企業はコスト削減を最優先の課題と位置付け、IT投資の80%は既存システムの保守・運用に費やされている。プラットフォーム×テクノロジー×ベンダーの組み合わせは企業1社当たり平均で11パターンに達し、情報システムは複雑だ。その一方で、ITはビジネスを成功に導くために欠かせないものとなっている。

 こうした状況に置かれた企業に対し、HPはビジネスの成功に寄与するITを「より少ないコストで」「より多くのビジネスからの要求に応えられる」「これまでよりもうまく」実現するための支援を提供していく。

 HPはブレードサーバー、x86ベースサーバー、UNIX+Linux+Windowsサーバー、SANシステムなどの10分野で世界トップの座にあり、IT業界の中で売上高が2007年度に初めて10兆円(1043億ドル)を超えた。2008年にはITアウトソーシングのパイオニア企業として知られるEDSを買収・統合し、社員数31万2000人、売上高12兆6000億円になった。

リジッドからアジャイルへITの転換でビジネスに貢献

 では、そのHPは「ビジネスの成功に寄与するIT」をどう実現するのか。そのカギとなるのがITトランスフォーメーションだ。IT投資の80%は既存システムの保守・運用に費やされ、イノベーションや新規開発には20%しか使われていないが、ITトランスフォーメーションはこの比率を変えてイノベーションに投資を回すこと。それにより、可視性、柔軟性、品質、効率、スピードのすべての領域でTCO削減とROI向上が達成され、「高コスト・高リスクで柔軟性に欠ける硬直的(Rigid)なIT」から「ビジネスの変化に迅速に(Agile)対応できる柔軟なIT」に転換(transformation)する。

 ITトランスフォーメーションを成功させるには、4つのポイントがあると考える。具体的には、「経営陣のコミットメント」「ゴールイメージの明確化と共有」「段階的なステップアップ」「ビジネスプロセスからインフラまで」だ。

 まず経営陣はITトランスフォーメーションが経営課題と認識し、リスクを判断したうえで実施に向けて方向性を全社に示す必要がある。また、実施段階に移ったら全社レベルでプログラムマネジメントを行わせ、経営陣はその内容をモニタリング・評価すべきだ。

 方向性の提示に当たって、そのゴールを明確に規定し、全社で共有することも重要だ。単に「ROIの極大化とTCOの極小化」をゴールとするのではなく、ROIやTCOの数値を具体的に設定し、社内のすべての関係者に浸透させるべきだ。

 ITトランスフォーメーションによる最終的な効果は、もちろんコスト削減にあるが、一挙にその成果を刈り取るのではなく、段階的にステップアップしていく進め方がよいだろう。各段階で得られたコスト削減効果の一部は将来に向けて再投資し、経営環境の変化に応じて段階ごとに将来像も見直すべきだろう。

 そして、ITトランスフォーメーションの対象はビジネスプロセスからインフラまでと広く取るべきだろう。アプリケーションとIT基盤も表裏一体のものとして扱うべきだ。

 EDSのサービス事業を引き継いだHPにはITトランスフォーメーションを成功に導くためのメソドロジーを完備する。例えば、実装時のプログラムマネジメントでは、「Designed for Run」というコンセプトに従って「リスクを最小に」「バリューを最大に」するようなプランニングと開発を実行。具体的な進め方としては、短期で効果が現れるところから先に着手し、その成果を全体に再投資していくという段階的なアプローチを取るようにしている。キーワードは、段階的コスト削減効果を後続プロジェクトの原資とする「セルフファンディング」と、経営環境の変化に応じて将来像を微調整していく「リスク回避」だ。

既存のインフラとアプリを7つの“Re”でモダナイズ

 HPのITトランスフォーメーションサービスは、インフラストラクチャとアプリケーション(レガシー・メインフレーム・マイグレーションを含む)を対象とし、PLAN→BUILD→RUNという工程のプロセスとして提供する。このうち、インフラストラクチャについては、PLAN工程でアセスメント、BUILD工程でモダナイゼーション、RUN工程でテクノロジーアウトソーシングという流れ。アプリケーションについては、PLANとBUILD工程でモダナイゼーション、RUN工程で運用保守という流れで作業が進められていく。

[画像のクリックで拡大表示]

 これらのサービスの中で最も規模が大きく、中核的な存在となるのがアプリケーションモダナイゼーション(AMod)だ。AModは7つの“Re”(Re-learn、Re-factor、Re-host、Re-architect、Re-interface、Replace、Retire)で構成されたプロセスで、Re-learnでモダナイゼーション戦略の立案とロードマップの作成をした後に、Re-factor/Re-hostで第1段階のコスト削減を実施するという内容。それによって得られた原資をRe-architect以降の工程に注入することによって、AgileなITを実現していく。

 また、AModではアプリケーションの枠組みとしてAgile Application Archi tecture(A3)と呼ばれるフレームワークを活用する。このフレームワークはFront Plane、CrossPlane、BackPlaneの3階層になっていて、5種類のアダプターを介して市販パッケージソフトウエアの連携を検証する仕組み。A3は8つの業種別に専用のものが用意されているので、各企業の業務・業態に合わせた検証が可能である。

 新聞などで報じられたように、日本国内では2009年5月13日にAModの提供を開始した。海外では国際航空運送協会(IATA)、飲料メーカー、通信事業者などで成功を収めているので、日本でも普及すると期待している。