
IT ステーションディレクター
横溝 陽一氏
右:オムロン 執行役員常務 グループ戦略室長
樋口 英雄氏
横溝 小売業界を取り巻く環境は劇的に変化しているうえ、インターネットによって21世紀は情報ルネッサンスの時代を迎え、生産者主導型から消費者主導型のスタイルへと転換しつつある。弊社も変化への対応を迫られており、CIOとして「ローソン3.0」「PRiSM」「Intelligent Competency Center(ICC)」の3つのテーマに取り組んでいる。ローソン3.0は現在構築中の次世代ITシステム、PRiSMは「お客さま・オーナー・クルー・社員の誰からも選ばれるローソン!」を目指す業務改革、ICCは分析力を武器とする企業になるための情報戦略だ。
これらに取り組むのに、最も大切なのはイノベーションだ。ローソンの存在意義はコンビニ業界のイノベーションリーダーであり続けること。ゴーギャンの絵のタイトルにならい「ローソンはどこから来たのか、ローソンとは何者なのか、ローソンはどこへ行くのか」といつも考えている。
自らを改める必要性を痛感、経営理念に立ち返る
樋口 「今回の世界同時不況は、あらゆるバブルがグローバルにはじけたもの」というのが弊社社長の言葉で、現状を真摯に受け止めて自らを改めなければならないという思いを強くしている。おそらくトンネルを抜けたところにあるキーワードは環境、安心・安全、健康だろう。「真のソーシャルニーズ創造を貫く」という経営理念に立ち返り、そうした社会の実現にいかに貢献できるかが重要だろう。
弊社はセンシング&コントロールをコア技術として、「工場自動化用制御機器」「家庭・通信用電子部品」「自動車用電子部品」「健康・医療機器」「社会システム」の5つのセグメントで事業を展開している。いずれもニッチであるが、グローバルに展開している。短期的には、現行の運営方式を徹底的に削減・抑制し、不採算事業については見直すといった緊急対策を講じている。中長期的には、ドメインと位置付けている5つのセグメントの構造改革、ドメイン内での世界トップの追求、運営方式(変動費構造、生産構造、本社機能、IT構造)の改革を行うことで収益構造を抜本的に改善したい。
横溝 昨年の景気後退に先立ち、当初の予定額のまま執行すると経常利益に大きな影響が出るとの経営判断に至り、1040億円で計画していた次世代ITシステム向け投資を約20%削減した。
具体的には、「アーキテクチャ」「調達方法」「運用サービスレベル」の3点でシステムの見直した。アーキテクチャについては、大型サーバーを必要とするバッチ処理から小型サーバーで済むリアルタイム処理へと変更した。調達方法については、ベンダーやパートナーと協議し、保守期間が満了するものについて延命策を講じた。サービスレベルについても、見直している。
樋口 弊社も2008年下期から急激な景気後退に見舞われたので、IT投資を削減対象にし、その一環として既存IT資産に対する運用保守の徹底的な見直しに踏み込んだ。例えば、業務アプリケーションについては保守やバージョンアップを基本的に中止し、その分を企業を成長させるための戦略型IT投資に集中させている。上述の既存ITの運用・保守費用がIT費用全体の3分の1を占めるが、そのほぼ3分の1をカットした。
削減の際には、2つのことに留意した。1つは、バラバラになっているものを統合するやり方で臨むこと。具体的には、サーバーを統合し、業務アプリケーションを統合し、ベンダーとの契約も統合した。2つ目は、関係者の理解を得るために、現行のプロセスを新しいものに変えていくという方向性を明示するよう心掛けた。そうすれば、既存のものの保守をやめても、使っている人はなんとか我慢してくれるからだ。
改革に必要なIT投資は継続、関心事はクラウド、SOA
横溝 景気の悪化でIT投資を削減したが、企業戦略にかかわるIT投資は今後も積極的に取り組む方針だ。ただし、戦略的IT投資にも攻めと守りの2種類がある。自分たちを変革したり業務改善をしたりするための投資は攻めの戦略的IT投資で、これは絶対に削減したくない。これに対し、守りの戦略的IT投資、例えばハードウエア保守やソフトウエア保守のために投資を維持することはないだろう。とはいえ、一見守りの戦略的IT投資のように思えるデータセンターも仮想化技術によって大きくコスト削減できるのなら、攻めの戦略的IT投資となる。
このほか、プロセス改革やITサービス化のための投資も絶対に削るべきではない。また、クラウドコンピューティングは業務アプリケーション開発に要する期間と費用を大幅に削減できるものだから、ぜひ続けていきたい。
樋口 製造業である弊社にとって、「絶対に削減しないIT投資」はあり得ない。赤字ぎりぎりの状態になれば、私でもIT投資より製品開発投資のほうを優先する。 もっとも、中長期戦略としてドメイン構造や運営構造(変動費構造、生産構造、本社機能、IT構造)を改革することを決心し、現在実行中なので、そうした改革を実現するためのIT投資は決して削減しないだろう。ただし、中長期での運営構造改革を実行するためのIT投資の決断をするは、経営者でもIT部門でもない。事業を担っている人自らが「自分たちを変えるには、これが必要だ!」と考え、自らIT投資の方針を決めるというスタイルに意思決定方法を変えようとしている。
横溝 弊社の場合、顧客や市場を起点にものを考え、プロセスを改革するといったイノベーションを継続していくので、今後、それに関連するIT投資に力を入れていく。業務やITの改革は、単年度で終わらせるのではなく、継続的・中長期的にやるべきというのが私の考えだ。環境やグリーンIT、人の生産性向上などにも、積極的に投資していきたい。
樋口 現在、業務アプリケーション開発にスピードと柔軟性を持ち込むためSOAベースのシステム化に取り組んでいるが、それを今後1~2年で完了させることが最優先課題だ。製造業なのでものづくり重視の姿勢は変わらないと思うが、安心・安全、環境、健康が重視される時代には、IT部門もソリューションやサービスを提供していける存在になりたい。例えば、顧客のプロセスのPDCAを回せるような、ビジネス直結型のソリューションだ。