ガリバーインターナショナル 代表取締役会長 羽鳥 兼市氏
ガリバーインターナショナル 代表取締役会長
羽鳥 兼市氏

 非常識という言葉は、世の中で勘違いされている部分があると思う。かつて、本田宗一郎氏が「不常識と常識と非常識がある」という話をされたことがある。不常識というのは不良の不であり、悪いこと、やってはいけないこと。とはいえ、常識の枠の中で物事を判断して行動していくと、大きな発明・発展には繋がらない。やはり、常識を越えた非常識な発想で常に経営をしていかないとダメだという。私もまったく同感である。

 ガリバーは中古車の買取・販売を手がけている企業だが、普通では考えられない非常識な発想で、これまで経営してきたように思う。中古車を販売するのにも、これまで50年以上続いてきた車を展示して販売するという形から、展示場を持たない販売、パソコンを使っての展示・販売をしてきた。それが今、認められて、販売が順調に伸びてきている。

 自動車業界は今、本当に大変な時代に入っている。米国のビッグ3はことごとく失速し、日本を代表する超優良企業のトヨタでさえ大変な苦労をされている。だが、本当に自動車は終わりなのか、自動車は売れないのかというと、そうではない。例えば、トヨタのプリウス、ホンダのインサイトは、大変売り上げが伸びている。これらがなぜ売れているかというと、非常識な車だからである。プリウスは、1リットル当たり38kmも走ってしまう。バイクよりも燃費がよく、地球環境に優しいということで、みんなが群がっている。

中古車情報を徹底的に開示してパソコン経由の販売に成功

 手前味噌になるが、我が社でも15カ月連続で売上高は伸びている。特に直近の決算月である2009年2月には前年比で200%を超える販売を記録した。これは、すべてパソコン経由で買っていただいた台数である。

 我々は、ドルフィネットというシステムを1997年に開発し、98年から正式に運用を開始した。当初は、人工衛星を使っての情報配信で車を販売していた。12年前は、誰もがこんなもので自動車が売れるはずがない、まして中古車が売れるはずがないと思っていた。試運転もできない、現車を確認することもできないで、パソコンの画像を見ただけで、中古車が売れるわけないだろうと言われた。

 しかし、我々プロは、20年以上前から現車を見ないで、画像だけを見てオークション形式で車を取引している。そこで、我々プロが購入できて、一般消費者が買えない理由は何かを考え、車の状態を細部まで徹底的に開示した。お客さんは展示場に行っても、車の下に潜って確認するような買い方はしない。そういう細かい部分は、我々プロが確認して情報を開示すれば、パソコンの画像だけでも必ず売れるようになるだろう。そう考えて取り組んできた結果が、今のガリバーである。

 画像だけで買ってもらう以上、事故車の販売は禁止している。また、現車を見ずに購入してもらうわけなので、故障しない車を提案していこうということで、2009年7月1日から、世界で初めて中古車の10年保証を打ち出した。

駆け引き中心の悪弊を体験し中古車相場の適正化に尽力

 中古車事業を始めたばかりのころ、地元の福島県郡山市から東京の中古車販売業者に車を売りに来たことがある。このときは急な現金が必要で、事前に電話で値段を大まかに決めていたにもかかわらず、いざ売るときになって足元を見られてひどく値切られた。そのとき、中古車業界はあまりにも駆け引きが強くてひどい業界だと感じた。こういう業界の体質は変えなければいけない、変えるのは自分しかいないと思い、いろいろと研究した。

 結局、1店舗ごと、地方ごとに値段を付けるから、値段がバラバラになる。車を見ないで、お客さんの状況を見て、駆け引きで値段が付けられる。やはり、価格は一括して決めなくてはいけないという思いを強くした。

 日本には今、130カ所くらい中古車のオークション場があり、毎週1回くらいずつ取引している。そこで、この車だったらこのオークション場がいちばん高く売れるというデータをすべて取り、いちばん高く売れる値段を基準に、そこに利益を加味して均一な値段を付けて販売しようと考えた。それが、ガリバーのビジネスモデルである。

 このビジネスモデルを実現し、業界全体にインパクトを与えるくらいの強さを持つには、日本中に500店舗くらいは早急に作らなければならない。しかし、500店舗も作る資金はないし、人もいない。そこで出した答えがフランチャイズ方式だった。ただし、これまで何十年も中古車業界に関わってきた人に入ってもらったのでは、変わってもらえないだろう。そこで、まったく異業種の、車のことを何も分からない人に参加してもらうことにした。

 そして、500店舗を5年間で作るという目標を立てた。1年で100店舗だから、ほぼ3日に1店舗立ち上げなくてはならない。3日に1店舗というと大変なので、考え方を変え、複数店舗を担当してくれる経営者がいると考えて、5年間で300人くらいの賛同者を全国から募ることにした。しっかり説明して、この業界の状態を理解してもらえれば、絶対に300人は参加してもらえると思いながらフランチャイズと直営店を同時に展開し、1999年9月に500店舗を無事達成した。

 500店舗を達成すると、我々が作った車の相場で、ほかの中古車屋さんも値段を付けるようになってきた。今では、中古車は適正な値段で流通するようになったと感じている。

儲けだけでは長続きしない非常識経営には高い志が必要

 お客さんに試運転させないで中古車を販売するのは、非常識だと思われるかも知れない。しかし、私がやっているような非常識なビジネスは、どれだけ高い志を持って取り組んでいるかが大事になる。高い志を持たない非常識な経営は害悪であり、いくら儲かるかだけが気になってしまい、長く続かない。

 非常識は大切だが、志を高く持たないとダメになってしまう。これまで常識と思われていたものが、非常識という発想を持ったものに淘汰される。そして、それが次の常識になっていく。その新しい常識も、いつか新しい発想の非常識によって淘汰される。世の中はこれの繰り返しではないかなと思う。

 今、100年に一度の経済危機だと言われるが、私は逆に100年に一度のチャンスが様々な業界に訪れていると考える。今こそ、非常識な発想でチャレンジしていってもらいたい。我々も、今まででは考えられない非常識な発想で、新しいカーライフをお客さんに提案していきたいと思う。