米Appleが米国時間2009年9月9日に開催した「iPod」の新製品発表会では,かなりやせた様子の同社CEO(最高経営責任者)Steve Jobs氏が約1年ぶりに登壇し,聴衆から拍手喝采(かっさい)で迎えられた。だが,そこから後は尻すぼみに終わった。発表会を通じた宣伝を得意とする同社だが,最近陥りがちなワナに今回もはまった。つまり,実際に発表した製品に見るべき所があまりなく,評判倒れの“こけおどし”に終わったのだ。

 今回発表されたのは,既存のiPod4機種に関するマイナーチェンジと,音楽管理ソフト「iTunes」のバージョンアップのみだった。ある意味,今回の発表会で最大のニュースは,どんな発表がなかったかという点だ。この日はビートルズのリマスター盤CDの発売日でもあったが,ビートルズの楽曲をiTunesで配信するとの発表はなかった。ファンの間で期待が高まっているタブレット型デバイスの発売も結局なかった(関連記事:Appleはなぜ好調なのか?うわさのタブレットとは?)。セットトップ・ボックス「Apple TV」についても,同社は今回も触れずじまいだった。

 発表となった新製品も大半は見所に欠け,皆が望んだような包括的な値下げもなかった。「iPod nano」は,ビデオカメラ,マイク,スピーカ,FMラジオを新たに搭載し,画面がやや大きくなった(関連記事:Appleがビデオカメラ搭載「iPod nano」を発表,1万4800円から)。「iPod touch」は記憶容量が増えた程度で,ハイエンド版については基盤となるハードウエアは「iPhone 3GS」と同じだ。

 特に割り切れないのが,今回の“新型”のiPod touchは暫定的な製品とみられることだ。Appleは当初,iPod nanoと同様のカメラとマイクを搭載した製品を投入する意向だった。だが,製造上の問題により,最終段階でその案を撤回した。おそらく今後登場することなるのだと思う。そのため,今回の発表会では,iPod touchの新機能の紹介ではなく,ゲーム機としての適性に焦点を当てざるを得なかった。新機能などなかったのだから仕方がない。

 「iPod classic」は昨年と同様,記憶容量を増やしたのみで販売を継続した。「iPod shuffle」は新色を投入した。iTunesはバージョンが9に上がった。米Microsoftの「Zune」のソフトウエアの機能を真似たとおぼしき面もある。例えば,オンライン・ストアのデザインの改良や,パソコン間でのコンテンツ共有などだ。iPhoneとiPod touchのソフトウエアについても,最新版のiTunesに対応したマイナー・アップグレードを施した。

 各製品とも同日から出荷を開始したが,Appleは微妙な立場に置かれている。先日発売した新版OS「Mac OS X Snow Leopard」も,開発に3年をかけたわりに,エンドユーザー向けの新機能が何もなかったことで,面白みに欠けるとの批判を受けていた。これでAppleは,2つのハンディを抱えた状態でホリデー商戦へと向かうことになる。さらに,ネットブックへの対抗策をまだ打ち出していないことを考えると,ハンディは3つと言ってもいいかもしれない。

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