本研究所では、クラウドコンピューティングについて、モバイルソリューションの観点から企業の情報システムを考えます。第1回第2回では、経営者やユーザーの観点から見た、クラウドの価値や本質について、第3回はモバイルワークスタイルへの変化について言及しました。今回はクラウドや企業システムにとってのモバイルの価値や本質に着目してみましょう。

B to BクラウドとB to Cクラウド

 モバイルソリューションに言及する前に、いまさらですがB2BとB2C、それぞれのクラウドサービスの根本的な違いと、本研究所でのターゲットを明確にしておきましょう。

 本研究所では主に企業システムのクラウド化が、モバイルによって加速されるだろうという仮説を立てています。そのなかで、B to Cクラウドは、米グーグルや米アマゾン・ドット・コムなど、元々はコンシューマビジネスを展開していたプレーヤーがビジネス領域に進出し誕生しました。彼ら以外にも、関連するサービスプレイヤーが、コンシューマ向けに多様なサービスが展開できると考え、マーケットを狙っています。しかし、このB2Cクラウドに関しては、語り始めるときりがないため、ここでは原則として扱いません。

 一方、B to Bクラウドについては、既存の固定線による接続だけでなく、これまで述べてきたようなワークスタイルの変化やモバイルアクセスの変化により、いよいよ基幹システムがクラウドに移行する準備が整ってきています。本研究所では、このトレンドを深掘りしているわけです。

 プラットフォームとして運用する際には、グーグルやアマゾンの例にあるように、BtoBとBtoCを明確に区分すること自体、クラウドサービスプレーヤーにとっては、あまり意味をなさないはずです(図1)。しかし、ビジネスを作り上げていく課程、および企業の情報システム担当者やITベンダーにとっては、両者を別枠で議論しなければ、「既にあるITシステムをどうするのか」「これからクラウドを使うべきか」という本質的な疑問に答えられません。なので、ここでは両者を区分して扱います。

図1●B to BクラウドとB to Cクラウド
図1●B to BクラウドとB to Cクラウド
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「雲」の向こう側へのアクセス手段

 さて今回は、クラウドへのアクセスネットワークについて考えてみましょう。企業内にいる利用者から見て、クラウド、すなわちネットワークの向こう側にサービスの形で存在するコンピュータ群に対するアクセス手段は、様々な形態が考えられます。専用線、オープンなインターネット、VPNを介したインターネット、モバイルなどです。

 回線レベルまで分解してみると、固定回線では広域イーサ、光アクセス、ADSLがメインになりつつも、フレームリレーやINSなどによる接続も部分的には残っていたりします。ところが、基幹システムへのアクセスにおいては常に、「アプリケーションに対する遅延が許容範囲か」というパフォーマンス面や、「誰がアクセスしているのか、不正なアクセスが発生しないか」というセキュリティ面が懸念されます。これは固定回線環境に限らず、モバイル環境においても変わりません。