米アップルの「App Store」のようなアプリケーション・ストアへの関心が世界中で高まっている。こうした状況下,韓国のSKテレコムが国内向けのアプリケーション・ストアとしては同国初のサービスを9月に開始し,注目を集めている。

(日経コミュニケーション編集部)

亀井 悦子/情報通信総合研究所 研究員

 韓国企業では,サムスン電子が2009年2月にアプリケーション・ストアをオープンし,Windows Mobile,Symbian,Javaなど多様なOSや言語をベースにゲームやエンターテインメント,ビジネスなどに向けたコンテンツを提供しており,その数は1000以上にのぼる。同社に続き,LG電子も7月にアプリケーション・ストアを開設している。

 両社は携帯電話ユーザーをターゲットにしているものの,韓国国内ではなく世界市場が狙い。サムスン電子は欧州,LG電子は東南アジアでサービスを開始している。こうした現状を見ると,SKテレコムが開始したアプリケーション・ストア「T Store」(写真1)は“韓国初”と言える。

写真1●SKテレコムのアプリケーション・ストア「T Store」<br><a href="http://www.tstore.co.kr/" target="_blank">http://www.tstore.co.kr/</a>
写真1●SKテレコムのアプリケーション・ストア「T Store」
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日本より少ないデータ・サービス利用

 日本や欧米諸国と同様,韓国でも音声通信の収益性が鈍化していることから,次なる収益モデルの確保が急務となっている。韓国の携帯電話普及率は94%で日本の82%よりも高いが,データ・サービスの利用度には大きな差がある。パケット定額制の加入率とARPU(ユーザー一人当たりの月間平均収入)のデータ売上比率を見ると,それぞれ日本では40%,32%であるのに対して韓国では11%,17%だ。

 通信事業者がアプリケーション・ストアの推進に積極的な理由がここにある。アプリケーション・ストアがデータ・サービスの利用を促す契機となると見込んでいるのである。

 韓国政府もモバイル・インターネットを成長分野ととらえ,政策面で後押しする。例えば,コンテンツ産業の育成を目的とした投資や通信事業者とコンテンツ・プロバイダ間の利益配分ガイドラインの策定,公式・非公式サイトの差別禁止といった供給サイドに立った問題の解決に乗り出している。また,ユーザー・インタフェースの改善やパケット料金の定額プランの導入促進など,ユーザー側に立ったモバイル・インターネットの環境作りも行っている。

成功の鍵は「開放性」とうたう

 その中でSKテレコムは,開発者を対象とした「アップストア事業政策発表会」を4月に開催し,アプリケーション・ストアの計画を発表。9月9日にT Storeを開始した。

 同社は,コンテンツ・マーケットプレイスの成功の鍵は「開放性」にあると述べている。この開放性を実現するために,自社の待ち受け画面サービス「I topping」を多様なプラットフォームのアプリケーションに対応できるようにする。現行のウィジェット依存のサービスに加え,他のアプリケーション・ランチャー機能や,あらゆるコンテンツへの接続ポイントの機能を提供するとしている(図1)。

図1●SKテレコムのプラットフォーム構想
図1●SKテレコムのプラットフォーム構想
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 韓国のモバイル・インターネット・プラットフォーム「WIPI」がベースの現プラットフォームも,Windows MobileやLinux,Symbianなどの汎用OSに拡張していくという。

開発者向けにアプリ・コンテスト開催

 コンテンツの確保とより多くの開発者の参加を促すために,SKテレコムは以前から開発者向けサイトを開設し,開発サポートを実施している(図2)。一つはアプリケーション・コンテスト。このほか,SDK(ソフトウエア開発キット)やAPI(application programming interface)情報,開発者向け研修プログラム,開発者同士やSKテレコムとの間のコミュニケーションの場などを,サイトで提供している。

図2●「T Store」の開発者センター<br><a href="http://dev.tstore.co.kr/" target="_blank">http://dev.tstore.co.kr/</a>
図2●「T Store」の開発者センター
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 7月には,開発者向けのオフライン開発センター「MD(モバイル・デバイス)テスト・センター」をオープンした。これは,コンテンツ提供企業だけでなく,コンテンツを開発する個人も利用できる施設。検証ルームや1000台以上のテスト端末,試験用サーバー,コンテンツ検証システムなどの設備を兼ね備えており,55人の開発者が同時にコンテンツをテストできる。

 また,センターを訪れる開発者に対応する専門のスタッフが常時スタンバイし,コンテンツの登録から商用化に至るまでのプロセスで技術的なサポートを行っている。SKテレコムは,コンテンツ開発にかかわる端末メーカー,中小企業,自営業者などが,このMDテスト・センターを利用することで開発コストを節約できるというメリットについてアピールしている。