社長に限らず役員や顧客、あるいは上司を納得・説得するのは、非常に難しいものです。

 ただ、すべてに共通するのは相手の利益になる提案や情報であれば、道は開けるという点です。お客様であれば、お客様が利益を得られる提案でなければ、こちらを向いてくれませんし、上司や役員であれば、彼らの成果や評価につながる提案や情報でなければ取り合ってもらえません。しかし、社長になると、少し意味合いは違ってきます。

 上司や役員は、社長に高い評価を受けたいという思いがありますから、当然自身の成果につながる提案や情報には飛びついてくれる可能性は非常に高いのですが、社長はそもそも気にいられるとか高評価を受けようとする相手がいるとしたら、それは投資家やマスコミ、世間といった非常に広範囲になってしまいます。ですから、自分の評価につながるという意識はそれほど高くありません。

 それでは、社長は何に一番興味を示すのでしょうか?

 まず簡単な表現で申しますと、【社長が認知していない重要かつ関心の高い情報】に対しては当然興味を示してもらえます。しかし、“重要”という定義は人それぞれですから、自分では重要であると考える情報や提案でも、社長にとっては「そんなのは当たり前だろ」ということになってしまう可能性があります。これは社長という地位に就かれる方々の人生経験やビジネスに関する知識がほかの方々と比べて当然高いわけですから、このようなリアクションになる可能性は否定できません。従って、社長に対する提案や情報提供は自身の評価を下げてしまう恐れがあるために社長に対するプレゼンテーションは案外勇気のいるものになってしまうのです。

 では、どうすれば社長の評価を下げない情報提供や提案がうまくできるのでしょうか?

 その対策は、絶対に社長が認知していない重要かつ具体的な情報を用いて提案作業を行うということになります。「そんな情報が簡単に見つかるわけないだろ!!」とお思いでしょうが、意外と簡単に手に入る方法があります。

社長が知らない重要事項を比較的簡単に手に入れられる方法は、アンケート

 本コラムの前編で「社長は社内の問題や課題を知りたいと思う気持ちが非常に強い」と書きましたが、この欲望を比較的簡単に満たす方法が【アンケート】です。「今時なにがアンケートだ!!」とお考えの方もおられるでしょうが、私はこのアンケートという手法で、何度も役員や社長を説得した経験があります。

 皆さんは、社長が求める情報の種類とはどんなものであると考えますか? 会社の財務のように数字によって表現される会社の状況・情報はどこの企業も持っており、投資家に対しても開示しているわけですから、財務諸表のように、数字によって作られた情報である【定量情報】は社長の強い興味を引かないうえに、誰もが知り得る非常に古い情報です。

 しかし、「こんな事実があった」とか、「この方法はおかしい」とか、「会社はこうあるべきである」などいった言葉や文字によって表現される【定性情報】はその名の通り、サマリーしたり分析したりすることが極めて困難です。よって、現状において非常に重要な状況把握の材料となる【定性情報】を有効に活用している企業は非常に希少です。

 アンケートはこの【定性情報】を定量情報化することができる非常に有効な手法なのです。投票動向や支持率など、種々の状況を把握する目的で、色々な調査機関や新聞・情報誌などが頻繁にアンケートを実施していますが、これらは正に【定性情報】の定量化を行っているのです。

 皆さんは全社員対象のアンケートを実施したことがありますか? 全社員アンケートとなると許可を取るだけで大変な騒ぎになる恐れがありますので、そう簡単な話ではありません。しかし、効果は絶大であるといっても過言ではないと思います。

 一例を挙げます。私は以前、全社員に対して50の質問をアンケートしたことがあります。当然無記名でアンケートを行ったのですが、50の設問に対する答えはすべて選択式にし、定量化を図ることは当然ですが、性別や部下の数、平均残業時間、部門、部署、転職回数、転籍回数、配置替え希望などの労働環境情報も入力し、給与や会社に対する意見も設問に組み入れました。

 全データを収集し終わり、さまざまな分析をし始めた時の感動は言葉では言い表せません。とにかく、社内の状況が驚くほどよく分かるのです。