古い発想にとらわれず、新たな試みをどんどん取り入れる。どんな製品開発にも欠かせない方針だが、グーグルの徹底度合いは群を抜く。電子メールという定番ツールすら、同社にかかれば見直しの対象。中核サービスである検索にいたっては、仕様は1日たつと様変わりする。

写真1●企業向け製品担当ディレクターのマシュー・グロツバック氏
写真1●企業向け製品担当ディレクターのマシュー・グロツバック氏

 「現在のオフィスソフトや電子メールは、すべて紙を使ったアナログ世界の技術を模したもの。それがITの使い方として本当にふさわしいのだろうか」。グループウエア製品「Google Apps」などの製品企画を担当するマシュー・グロツバック ディレクターは、こう問題を提起する(写真1)。「我々は人々の仕事の進め方を再考する。そしてクラウドのパワーを使って、新しい価値を届ける」。

 古い発想にとらわれず既存の価値観や方法を見直す。それを製品やサービスの開発に生かしていく。どの企業でも求められる、当たり前の考え方だ。問題はそれを実践できているかどうかである。

 グーグルが異質なのは、個人の考えや組織内の議論で終わらせず、実際に作って世に問うところだ。「試行錯誤の中から新しいものが生まれる」という考えの下、実験的な取り組みを奨励する風土と、実行に移せる技術力やインフラがグーグルにはある。その発想と行動力は時として、一般人の目には奇異にすら映る。

電子メールも疑ってかかる

図1●Waveの画面例
グーグルはWave開発用のAPIを公開し、対応アプリケーションの充実を図る
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 こうした製品開発姿勢を端的に示すのが、5月に発表したグループウエア「Wave」だろう(図1)。電子メールや文書共有などの機能を併せて提供するGoogle Appsとは別の製品だ。

 基本的な使い方は電子メールとインスタントメッセージ(IM)を合わせたようなもの。受信箱やゴミ箱といった、メッセージを保存・分類するフォルダに近いメッセージ管理機能、登録済みのメンバーのアドレスを管理するアドレス帳機能などを備える。やり取りするメッセージは、リアルタイムに相手画面にも表示される。

写真2●Wave担当のグレッグ・ダレサンドラ氏
写真2●Wave担当のグレッグ・ダレサンドラ氏

 Waveは電子メールに代表される既存の情報共有技術に対する、グーグルなりの改善提案と言える。「電子メールのアーキテクチャは郵便のメタファ。基本的には40年前に生まれたものだ。確かに使い慣れているが、それが最適なコミュニケーション手段とは限らない」。プロダクトマネージャを務めるグレッグ・ダレサンドラ氏は、Wave開発のきっかけをこう話す(写真2)。

 紙にペンで文字を書き、それをポストに投函する。郵便配達員が収集した手紙が郵便局に集まり、局員がそれを仕分けする。再び配達員が手紙を携えて、あて先まで手紙を届ける。電子メールは、こうした非同期のコミュニケーション手段を模したものだ。ダレサンドラ氏らWaveの開発陣は、電子メールだけでは現在のコミュニケーションをカバーできないと考えた。