筆者がエンドユーザー・ヒアリングを実施するときに,頻繁に用いるのがブレーン・ストーミングであり,これは是非ともお薦めしたい手法である。ブレーン・ストーミングとは,複数のメンバーが自由にアイデアを出し合い,そのアイデアを利用してさらに連想を膨らませたり,改良を行うことでさらに多数のアイデアを生み出すことを目的としたセッションである。このアイデア出しの対象として,現行システムの問題点や新システムに求める機能を出してもらうのである。エンドユーザーの複数のメンバーを集めて,短期間に要件の洗い出しを行いたい場合に,ブレーン・ストーミングは非常に有効な手法である。
ブレーン・ストーミングを実施する上で重要なことは以下の五つである。
・奔放なアイデアを求める。極論,暴論,空論などを歓迎する。
・質より量。たくさんのアイデアを出すことを目指す。
・他人のアイデアに便乗し,修正,改造,発展,結合をどんどん行う。
・人のアイデアを批判しない。特に上司は部下のアイデアを決して否定してはいけない。
・もし,他人のアイデアが気に入らなければ,批判をするのではなく対案を出す。
ブレーン・ストーミングのやり方はいろいろあるが,その中でお薦めの方法として,付せん紙を利用したブレーン・ストーミングを紹介する。この方法は「KJ法」と呼ばれる情報の統合やアイデアの創出方法を応用したもので,既に活用したことのある読者も多いことだろう。一般的にも有名な方法であり,初めての人でも参加しやすく,エンドユーザー・ヒアリングの手法としては有効な方法である(図4)。

[用意するもの]
・大型の付せん紙。いくつかの色(黄色,青,ピンク)があるとよい。
・サインペン
・ホワイトボードまたは模造紙
[参加者]
・セッション・リーダー1人
・セッション・メンバー5人から8人程度
[時間]
・1回2時間程度を目安とする
[回数]
・要求の洗い出しに1回,整理分類に1~3回の合計2~4回程度
[やり方]
(1)メンバー全員に付せん紙20~30枚とサインペンを配る。
(2)セッション・リーダーからメンバーに課題を出す。例えば「現行システムに対する不満や要望を何でもよいので挙げてください」といったようなテーマを提示する。
(3)メンバーはそのテーマについて思いつくことをどんどん付せん紙に書き込んでいく。原則として1枚の付せん紙に一つのアイデアを書く。複数のアイデアは書かないようにする。例えば「レスポンス・タイムが遅い」「検索機能が弱い」「枝番がなく不便」といったレベルで1枚ずつ記入する。基本的にセッション・リーダーは書き出しには参加しない(人数が少ない場合などは書き出しを自ら行ってもよい)。
(4)テーマの内容にもよるが,一つのテーマに関して10~30分程度の時間で書き出しを行う。あらかじめ「20分で書いてください」と指示しておくとよい。
(5)書き出しの時間が終了したらセッション・リーダーは付せん紙をすべて回収し,それらを1枚ずつ読み上げながらホワイトボード(模造紙)に張っていく。張るときにある程度大まかな分類を同時に行う。読み上げるときに例えば「これは検索機能に関することですね」と書いた人に確認を取りながら,似たものや,関連するものを同じグループに分類していく。この段階では大雑把で構わないので,すばやく行う。
(6)大まかに分けられたグループごとに,付せん紙に書かれた内容を再度見直し,そのままグループにとどめておくのか,ほかのグループに移動した方がよいかメンバーと議論しながら整理していく。
(7)上記の作業を繰り返して,いくつかの種類のグループに要求を整理していく。
ブレーン・ストーミングの長所としては以下の点が挙げられる。
・同時に複数のエンドユーザーに参加してもらえるので,個別にインタビューするよりも,ヒアリングの効率性が高い。
・エンドユーザー同士が要求事項や問題点に関して議論をしていく中で,新しい発見があったり,課題の優先順位が明確になったりしていく。
・特にKJ法は,最初に付せん紙に書いてもらうので,いわゆる声の小さい人や無口なタイプの人の意見も吸い上げることができる。
逆に,ブレーン・ストーミングの短所としては以下の点が挙げられる。
・セッションを複数回行う場合,毎回同じメンバーを集めるのが大変な場合がある。
・整理分類に関してはセッション・リーダーの力量が品質に大きく影響してしまうことがある。