KDDIとNTTコムは,WANサービスに関してもう一つ,共通した動きを見せている。NTT東西のフレッツ 光ネクストやBフレッツを,広域イーサネットのアクセス回線として使えるようにしたことだ。KDDIの場合は,それをWVSの「プラグイン機能」として実現した(図1)。

図1●フレッツ網のアクセス回線でコスト削減
図1●フレッツ網のアクセス回線でコスト削減
Wide Area Virtual SwitchではNTT東西のフレッツ網をレイヤー2のアクセス回線として利用できる「プラグイン機能」を提供する。NTTコミュニケーションズも同様にフレッツ網が使えるGroup-Etherを開始した。

 一方,NTTコムはフレッツ網を経由して接続する広域イーサネット「Group-Ether」を2009年7月17日に開始した。こちらは,バーストイーサを利用できるe-VLANとは別のサービスで,バックボーンも異なる。

 WVSのプラグイン機能やGroup-Etherでは,通信料金は1拠点当たりで月額約2万円で済む。ベストエフォート型のフレッツ網を介して接続するため,前述したバースト通信は利用できないが,大規模拠点のバックアップ回線や,小規模拠点のアクセス回線にはぴったりだ。実は,バースト通信以上に注目する声もあり,システム・インテグレータからは,「広域イーサネットを安く導入したいというユーザーには効果が大きい。金融関連など信頼性を重視するユーザーでもバックアップ回線としての選択肢になり得る」(大和総研ビジネス・イノベーション ITマネジメント事業本部 IT基盤設計部 杉岡諭課長代理)という期待の声が上がる。

先進ユーザーが動き始めた

 これらの新サービスに対するユーザーの反応は悪くない。一部のユーザーはその利点に注目し,サービス開始とともに使い始めた。

 建設・産業用機械製造のコマツは7月中旬にKDDI WVSを利用し始めた。週末を使って段階的に導入を進め,7月末までに全国主要拠点をWVSに切り替えた。同社は従来,KDDI Powered Ethernetを利用していたが,一部拠点で帯域不足の兆候が現れ始めていた。網の刷新を検討していたちょうどそのころ,KDDIが新サービスとしてWVSを発表。既にデータ・センターへのサーバー集約を推進している同社の環境に適用しやすいことから,導入を決めた。

 従来の網では,データ・センターのアクセス回線の帯域は100M ビット/秒。各拠点は5M~20M ビット/秒。WVSの導入に当たっては,データ・センターは200M ビット/秒,各拠点の契約帯域は10M~40M ビット/秒(物理インタフェースは100M ビット/秒)に設定した。「データ・センター向けの通信では実効90M ビット/秒以上のスループットを確認した。速度には満足している」(コマツのe-KOMATSU推進室テクノロジーグループ田畑健一担当部長)。数カ所の拠点に導入した時点では,移行作業,実際の運用においてもトラブルは発生していないという。

 月額料金についても,「増速したにもかかわらず,想定以上に安い料金に収まった」(同)。一部で導入していたWAN高速化装置も不要になり,保守費用削減という副次効果もあった。

バースト適用の制限に不満の声も

 システム・インテグレータの中にも,低コストかつ広帯域を実現できるバースト通信に対応した新サービスを歓迎する声は多い。特に現在の厳しい経済状況下で「コスト削減のためにサーバーをデータ・センターに統合する企業が増えている。新サービスの登場は,その動きを活性化する起爆剤になる」(リコーテクノシステムズ ITサービス事業本部 技術センター 豊田潤一センター長)と期待をかける。

 インテグレータにとっては,独自に運営しているデータ・センターや各種サービスを提案しやすくなるという目算もある。「現状の網では帯域が足りないために,動画の利用を制限しているユーザーもいる。バースト通信が利用できるなら,データ・センターに動画のサーバーを設置し,シン・クライアントに向けて教育用途の動画を配信するといったニーズに対応できる」(大和総研ビジネス・イノベーション コンサルティング営業本部プロダクト開発企画部の生源寺一正上席課長代理)。

 とはいえ,新サービスを手放しで褒めるばかりではなく,厳しい意見を持つインテグレータもいる。例えば,WVSのトラフィックフリー機能の適用対象はKDDIまたは提携したデータ・センター向けの通信に限定されているため,自由度が低いという指摘だ。どの拠点に対してもバースト通信ができれば「もっとユーザーに提案しやすい」という。

 バーストイーサについては,送信先の制限はないものの,どのアプリケーションの帯域を確保するのか切り分けや管理が難しいという意見がある。帯域確保される範囲が物理インタフェース帯域の10%で,残りがベストエフォートという点についても不満の声が多い。「回線の込み具合で帯域が変化するのでは,金融機関などの信頼性を重視する業務には利用できない」と複数のインテグレータが主張する。確保できる帯域が回線の10%と固定されている点も選択の自由度が低く疑問だという声がある。

ソフトバンクは広帯域回線を安く提供

 KDDIやNTTコムと競合する通信事業者のソフトバンクテレコムは,バースト対応サービスを投入していない。その理由は「バースト通信による圧迫を心配する必要がないほど広帯域の回線を安く提供する」(営業推進本部 営業推進第一統括部マーケティング推進部 中村拓博部長)方針を取っているからだという。

 料金の違いを見ると,NTTコムのe-VLANでは100M ビット/秒の回線の通信料が約73万円/月,バーストイーサアクセスで確保帯域が10M ビット/秒(物理インタフェースは100M ビット/秒)なら31万5000円/月。ソフトバンクテレコムのULTINA Wide Ethernetでは100M ビット/秒を約40万円/月に設定しており,NTTコムのバースト通信との料金差は10万円程度。実際には相対取引で個別に決めた料金で提供されるため単純な比較はできないが,中村部長は,「月額10万円くらいの違いなら,生産性を重視する企業は,バースト対応のサービスよりも,帯域が丸ごと確保されたサービスを選ぶのではないか」と見る。

 WANサービスは既に成熟したサービスであり,“広帯域を安く使いたい”という揺るぎないニーズがあるのだという。そのような認識に基づいてバースト対応サービスを見ると「目先を少し変えたプロモーションにも見えてくる」(中村部長)という。同社は今後も同様のバースト対応サービスを追加する予定はないという。

 低コストで広帯域な回線を提供することで,WVSやバーストイーサが目指しているクラウド環境の対応も実現できるという。