2011年7月24日に予定されている地上テレビ放送の完全デジタル化の期限まで,あと2年を切った。また,総務省は「携帯端末向けマルチメディア放送の実現に向けた制度整備に関する基本的方針」と2009年9月中旬~10月中旬に実施する予定の「参入希望調査の概要」を8月28日に公表した(発表資料)。

 このマルチメディア放送サービスにMediaFLO方式でサービスの事業化を目指すKDDI陣営のメディアフロージャパン企画は,7月22日~24日の3日間に東京ビッグサイトで開催された「ワイヤレスジャパン2009」で,代表取締役社長 増田和彦氏による「MediaFLOにおけるマルチメディア放送について」の講演を行った。今回は,増田社長の講演を中心に,MediaFLOの最新動向とビジネス戦略を解説する。

チューナ非搭載端末向けのUSB型受信機などを披露

写真1●ワイヤレスジャパン2009のクアルコムジャパン・ブースに参考出展された<br>MediaFLOの最新端末<br>Bluetooth型受信機(左)とWi-Fi型受信機(右)
写真1●ワイヤレスジャパン2009のクアルコムジャパン・ブースに参考出展されたMediaFLOの最新端末
Bluetooth型受信機(左)とWi-Fi型受信機(右)
[画像のクリックで拡大表示]

写真2●メディアフロージャパン企画の代表取締役社長 増田和彦氏
写真2●メディアフロージャパン企画の代表取締役社長 増田和彦氏
[画像のクリックで拡大表示]

 地上テレビ放送の完全デジタル化により空くVHF帯ローバンド(90M~108MHz)の18MHz幅とVHF帯ハイバンド(208.5M~222MHz)の14.5HMz幅は,「次世代ワンセグ」と位置付けられている携帯端末向けマルチメディア放送サービスで利用される予定である。このVHF帯ハイバンドにおいて,KDDI陣営のメディアフロージャパン企画は全国向けマルチメディア放送サービスの事業化を目指している。

 米国で既にVerizon WirelessとAT&Tによって提供されているMediaFLOの商用サービスは,受信チューナを搭載した携帯電話が受信端末となっている。しかし,受信チューナが搭載されていない端末でもMediaFLOを受信できるようにするUSB/Wi-Fi/Bluetooth型受信機などのアクセサリや,自動車向け車載端末の開発を行っている。これらの端末は,今年の「NAB Show」やワイヤレスジャパン2009で披露された(写真1)。

 これらのアクセサリーを使えば携帯端末以外もMediaFLO端末となるため,「携帯電話事業者サービス以外にもビジネスの可能性が広がる」と増田社長は期待感を示す(写真2)。例えば,産学官が連携した島根県のユビキタス特区では,MediaFLOやFeliCaを使ったサービス実験やビジネスモデル実験が行われており,MediaFLO受信機能を搭載していない韓国サムスン電子製デジタルサイネージ端末とUSB型受信端末を組合わせた「サイネージ情報発信実験」が行われている。これは,放送波を利用した新しいデジタルサイネージ・サービスであり,新しい広告ビジネスとして注目されている。

リアルタイム放送以外の新しいサービスを提案

 現在,米国で提供されている商用サービスは,有料のリアルタイム・ストリーミング放送だけである。月額の基本料金は15ドル~30ドル(Verizon Wirelessの場合は最大で25ドル)と,ちょっと高めの設定となっている。日本における料金について増田社長は,「日本ではこの料金は非常に高額だと思っており,そのままこの金額が受け入れられるかは疑問。日本で受け入れられる料金施策が必要」との考えを示した。

写真3●インタラクティブな広告の例
写真3●インタラクティブな広告の例
[画像のクリックで拡大表示]

 さらに増田社長は,リアルタイムのストリーミング放送だけでなく,インタラクティブ広告や投票など,携帯端末向けマルチメディア放送の特徴であるIPパケット放送による新たなサービスの重要性に言及した。例えば,インタラクティブ広告では,「放送されているCMに関連したバナー広告やクーポン取得を促す画面の表示,ユーザーのアクションをトリガーとしたメールによるクーポン配信,視聴者エリアで開催されるスポンサー・イベント情報の配信など,様々なサービスが提供できる」と言う(写真3)。

 このインタラクティブ広告の日本での実現性について増田社長は,「日本で実施する予定の全国向けマルチメディア放送は,有料のビジネスモデルを考えているため,広告をベースとした無料放送の提供は難しいと思っている。多くの受信デバイスが普及しているワンセグでも広告価値が付いていない現状から,こういった仕掛け自体は興味があるものの,本格的な広告ビジネスが立ち上がるは難しい」と語った。しかし,MediaFLOのこういった仕掛けを利用することにより,「様々な形での広告表現ができるのであれば,デジタルサイネージなどの新しいビジネスを考えるうえでクライアント企業にとっても有効なユーザーに対するリーチ方法になり得ると思っている」との考えを示した。

写真4●クアルコムが提案するMediaFLOの統合的ユーザー・インタフェース
写真4●クアルコムが提案するMediaFLOの統合的ユーザー・インタフェース
[画像のクリックで拡大表示]

 このほかマルチメディア放送は,「ユーザー・インタフェースが非常に重要なキーポイント」と延べ,統合的なユーザー・インタフェースの重要性を指摘した。特に,携帯電話事業者はユーザー・インタフェースに対する要求が厳しい。ユーザーにとっては技術的なコンテンツの伝送方法にはあまり関心がなく,様々なサービスに対して簡便で統合的にアクセスできるユーザー・インタフェースが重要となる。

 そこでMediaFLOでは,待ち受け画面や視聴中の画面上に,天気予報,ニュース番組,SNSや好みの番組,蓄積済み番組一覧へのショートカットをガイドとして表示し,それらのショートカットから番組を呼び出せる統合的なユーザー・インタフェースを紹介した。「天気予報やニュースなど,IPパケット放送を使ったデータ・キャスティング・コンテンツにシームレスに切り替えられる」(増田社長)。また,統合的なユーザー・インタフェースを提供することにより,「ユーザーから見たときに非常にリッチ感のあるサービスに仕立て上げることができると思っている」と説明した(写真4)。