「『Seasar2を導入して生産性が上がりました』『システムが無事カットオーバーしました』という声を聞くと,人の役に立てているという実感がわきます」。電通国際情報サービス(ISID)の比嘉 康雄氏の仕事は,「Seasar2」というオープンソースソフトウエア(OSS:ソースコードが公開されたソフト)の開発とサポートだ。Seasar2は,比嘉氏が開発しOSSとして公開している,プログラミング言語Javaのフレームワーク(アプリケーションソフトを開発・実行するための土台となるソフトウエア部品)である。
比嘉氏はもともとISIDで社内向けのJavaフレームワークを開発していた。社外の友人に頼まれてシンプルなJavaフレームワークを作り,それを「Seasar」という名前でOSSとして公開した。続いて,生産性向上のための機能を持つSeasar2を2004年に公開。NTTデータ イントラマートのフレームワークや,金融業,通信事業者,自治体など多くのシステムに採用されるようになった。コミュニティも拡大,比嘉氏以外の人が作ったSeasar2関連のOSSも数十を数えるまでになった。
比嘉氏がOSSの開発を仕事にすることができたのは,Seasar2が爆発的に普及したこともあるが,比嘉氏自身で勤務先のISIDへ積極的に働きかけたことが大きい。比嘉氏は,OSSに対する活動がIT産業全体への貢献だけでなく,勤務先の広報活動にもなると説得し,まず勤務時間の3分の1をSeasar2開発に充てる許可を取った。
こうして,勤務中に開発やサポートが可能になったことでSeasar2の普及が促進された。すると,ISIDでも事業としてSeasar2の有料サポートを開始するようになった。
これ以降,比嘉氏は勤務時間の100%を,Seasar2の開発とサポートに充てることができるようになった。
増えてきたOSS開発という仕事
Seasar2の成功は「偶然が積み重なった結果」と比嘉氏は謙遜する。だが,「トライしなければ当たらない。何度もチャレンジしていれば当たることがあります」(比嘉氏)。仮に普及しなかったとしても,「OSSのコミュニティ活動で多くの知り合いができ,仕事がしやすくなることはとても大きな収穫でしょう」(比嘉氏)。
OSSの多くは無料で使用することができる。このため,OSSが登場した当初はビジネスとしてとらえられることが少なく,プログラミングに興味のある人がボランティアとして開発に携わっていた。
だが,最近ではOSSを利用して製品を開発するケースは増えている。多くのベンダーで,新しいソフトウエアを普及させる手段として,自社開発のソフトをOSSとして公開する方法は当たり前になりつつある。今後OSSを開発する技術者の仕事の場は拡大していくだろう。
自分でオリジナルのOSSを作るだけが,OSS開発を仕事にする方法ではない。Linuxなどの普及しているOSSに精通し,改良できる実力を持つ技術者を求めている企業も多い。例えば,富士通やNEC,日立製作所などのサーバーメーカーでは,Linuxの改良を業務とする技術者が数百人いる。ソニーなどの家電メーカーでも多くの技術者がLinuxの開発に携わっている。
有償サポートや製品販売が収益源
OSSの開発や改良,サポートを行う仕事。自社で開発しているソフトウエアのほか,オープンソースコミュニティや他社が開発しているソフトウエアの改良を行う場合もある。OSSの有料サポートサービスを提供したり,OSSを組み込んだ製品(ソフトウエアおよびハードウエア)を販売したりすることが企業としての収益源になる。
必要なスキル
- プログラミング力
JavaやC++,PHP,Perl,Rubyなどの言語やデータベース,ネットワークなどの技術に関する知識が必要。ソースコードを読む力も重要。 - アイディア
自分が使いたいものは何か,他人が必要としているものは何かを考えることが求められる。 - 行動力
ソフトを作り,公開する行動力に加え,作ったソフトを普及させるにはイベントなどに積極的に出て発表することが有効。