こんにちは。久利隆太です。今回から,「知らないと損をする成功するキャリアのつかみ方」を具体的にお伝えしていきましょう。事例を挙げて説明していきますので,中途採用の実態もご理解いただけるはずです。

 最初に紹介するのは,都内のソフトハウスA社で同じ部署に勤める加藤さん(仮名,31歳)とその先輩の坂口さん(仮名,33歳)の例です。

人材紹介会社でキャリア登録

 A社は,主に製造業や流通業向けのシステム開発を手がける約200人ほどの中規模なソフトハウスです。小規模なシステム開発はプライム(元請け)で受注しますが,大規模なシステム開発になると大手システム・インテグレータから受託しています。社員の半数以上は,協力社員として大手システム・インテグレータに常駐しています。

 社員同士の仲も良く,堅実な会社経営を行っていることから,社員の不満はほとんどありません。ただし,大手の下請けという立場上,案件自体が下流工程中心ということもあり,ここ数年,多くの30歳前後の若手,特に将来の幹部候補となり得るリーダークラスが,より良い条件で大手システム・インテグレータに転職しています。加藤さんと坂口さんが転職を考えたのも,ごく当たり前のことでした。

 加藤さんは,もし転職するなら,ベンダーではなく,大学時代に行きたかった金融や製造業でこれまでの経験が活かせる「社内SE」としてのキャリアを積みたい,と思っていました。特に,大学時代からの憧れである電子部品メーカーB社に入社できれば最高だ,と考えていました。

 実は加藤さんは一度,大手システム・インテグレータに転職した元同僚から「うちに来ないか」と誘いを受けたことがあります。ベンダーに転職するつもりはなかったので,この話は断ったのですが,そのときに元同僚は加藤さんに「転職を考えるのであれば,まずはプロに相談した方がいい」とアドバイスし,人材紹介会社C社を紹介しました。元同僚も,C社の紹介で大手システム・インテグレータに転職できたのです。

 転職を考え始めた加藤さんは,早速,元同僚に紹介されたC社のWebでキャリア登録してみました。加藤さんにとっては,C社は初めて聞く社名でしたが,人材紹介会社としては知名度が高く,IT企業への転職で多くの実績を上げています。

大手システム・インテグレータへの転職を強く薦められる

 キャリア登録をした翌日,キャリアコンサルタントの佐藤さん(仮名)から連絡があり,加藤さんは業務終了後に都内のC社のオフィスで佐藤さんと面談することになりました。面談前は,「人材紹介業は成功報酬型の手数料ビジネスだから,自分に興味のない会社でも強引に受けさせられるんじゃないか」と少し心配していましたが,実際に面談が始まると,佐藤さんはすぐに案件を提示することもなく,まずはキャリアの棚卸しを行い,加藤さんの経歴をじっくりと聞いてくれました。

 面談で加藤さんは,「自分としては社内SE,できれば電子部品メーカーB社のような会社でキャリアを積みたい」と,佐藤さんに伝えました。しかし残念ながらB社からの求人はありませんでした。

 加藤さんの希望を聞いた佐藤さんは,加藤さんに次のようにアドバイスしました。

  • 下流工程中心の仕事から,上流工程へシフトするべき
  • 業務知識,マネジメントスキルは大手システム・インテグレータでこそ経験できる
  • キャリアチェンジよりも,今までの経験を活かす方が大事

 加藤さんは人柄もよく技術力もありましたが,「これなら誰にも負けない」というものがないため,転職のプロの立場から見ると,まだまだ市場価値が高いとは言えませんでした。このため佐藤さんは,まず大手システム・インテグレータに転職し,上流工程の仕事をしながら業務知識やマネジメントスキルを磨くのが将来的に社内SEになるための近道になる――と,加藤さんにアドバイスしたのです。「大手システム・インテグレータがここまで採用に積極的なことは今までなかったので,キャリアを伸ばすのであればいい機会ではないか」と,佐藤さんは大手システム・インテグレータへの転職を強く薦めました。

 将来的なキャリアパスを考えると,確かに佐藤さんの言うとおりでした。加藤さんの今までの経験は下流中心で,製造業向けといってもほとんど業務知識はありません。将来B社に転職したいと思っても,業務知識がなければ相手にされないことは,加藤さんにも容易に理解できました。マネジメントスキルも,いつの時代でも求められる重要なスキルです。

 佐藤さんは,B社以外の社内SEの案件をいくつか紹介してくれましたが,加藤さんが希望する条件と合わなかったため,その場ではお断りしました。大手システム・インテグレータへの転職も踏ん切りが付きませんでした。「もしほかに社内SEの案件があれば,ぜひ紹介して下さい」と言い残して,加藤さんはC社のオフィスを去りました。

 ある日のこと。加藤さんが電子部品メーカーB社の採用ページを見たところ,「社内SE」の求人が出ているではありませんか。応募要項を見ると「設計以降の開発経験が5年以上」とあり,社内SEとしての経験がなくても大丈夫そうでした。加藤さんは「ベンダーに発注してマネジメントする人ではなく,自ら開発できる人を欲しがっているに違いない」と考え,自分の経験が活かせると確信しました。

 すぐに応募してもよかったのですが,念のためキャリアコンサルタントの佐藤さんに相談してみました。しかし,まだB社の求人はないとのこと。とはいえ,ホームページに求人が出ているのは間違いない。であればと,履歴書と職務経歴書を作成して,「当たって砕けろ」と,自分で応募してみることにしたのです。