地上アナログ放送の跡地を利用した携帯端末向けマルチメディア放送の実用化に向けて,総務省は「制度整備に関する基本的方針」を確定するとともに,「参入希望調査」の概要を発表した。参入希望調査は,希望する放送の別,ハード事業・ソフト事業の別などに加えて,参入主体の名称や出資者なども聞く。総務省は,無線局の免許に当たっての使用させる周波数の検討の参考にする。調査は9月中にスタートし,10月中をメドに締め切る予定である。残された時間はほとんどない。こうしたことから,参入を計画する事業者の動きに加速がかかり始めた。

FM東京らのフォーラム,出資前提に参加呼びかけ

 まず口火を切ったのが,VHF帯のローバンド(第1~第3チャンネルの18MHz幅を利用)の周波数を利用した地方ブロック向け放送への参入を目指すFM東京らのグループである。まず,いわゆるソフト会社(委託放送事業者)の形を早急に整えるため,全国FM放送協議会が臨時総会を開催し,各ブロックごとに資本金1000万円の会社を10月初めに立ち上げることを決議した。「北海道」「東北」「関東甲信越」「中部」「近畿」「四国」「九州」という7ブロックそれぞれで,地域のFM局が出資する形で会社を立ち上げる。ただし,「北海道」と「東北」の二つのブロックについては「北日本会社」を立ち上げて,当面は両ブロックを1社で担当する。

 併せて,FM東京らが参加するマルチメディア放送ビジネス フォーラムでは,「ブロック3セグ放送会社」運営研究WGと,「V-LOW全国ハード会社」研究WGの立ち上げを決めるとともに,8月31日に開催された同フォーラムの情報交換部会で,出資を前提としてWGへの参加メンバーの募集を行った。

 「ブロック3セグ放送会社」運営研究WGの基本方針は,ソフト事業者として全国7ブロックにそれぞれ3セグメント分の帯域を確保し,音声放送番組と新規データ配信に利用する。サービスのレベルは全国同一とし,情報はブロック単位とする。この意味するところは,例えば「自動車向けの情報提供サービスを想定した場合,全国で同じサービスを利用できるが,実際の情報の中身は各地域の情報をブロックごとに異なる」といったイメージである。WGでは,「編成」「ネットワーク番組」「ブロック独自番組」「事業計画」などを検討する。

 各ブロックのソフト会社には,最終的には1/3~1/2程度を新規事業者が出資し,残りを地元FM局やジャパンエフエムネットワーク(JFN)が出資する形態を想定する。例えば新規参入を目指す事業者が全国でサービスを提供したい場合は,全国の各ブロック会社に出資し,特定のブロックでソフトを提供したい場合は当該ブロックの会社に出資するという形態を想定する。

 「V-LOW全国ハード会社」研究WGは,少なくとも3セグメントのソフト会社が全国でサービスできるように,置局と投資スケジュールを検討していく。ところで,VHF帯ローバンドを利用する地方ブロック向け放送のハード会社は,各ブロックごとに1社と想定されている。その一方で,この放送にはFM東京らのグループだけではなく,例えばAM放送事業者の準備動向にも関わってくる。そこで,こうした状況も見据えながら,「独力でもできるように,ハード事業については2段構えで準備していくことになりそうだ」という。

ラブコールの嵐も,NHKは意見を表明せず

 こうした状況で,注目を集めているのがNHKである。NHK自身,これまでもVHF-LOW帯マルチメディア放送推進協議会(VL-P)の議論に積極的に参加するなど,技術検討の場においては大きな役割を果たしてきているが,同放送に参入するかどうか,は機関決定しておらず,態度を表明していない。これに対し,業界からはラブコールが相次いでいる。

 例えば,2009年7月~8月にかけて総務省が同放送の「制度整備に関する基本的方針」案を示して業界から意見を募集したときも,「地方ブロック向け放送の普及,発展にはNHKの参入が必要不可欠。したがってNHKの参入について制約を課さない制度とすることが望ましい」(デジタルラジオ全国連絡協議会),「NHKの資産,ノウハウを活用することがマルチメディア放送の発展につながると考えるため,参入に制約を課さないよう要望する」(マルチメディア放送ビジネスフォーラム)などの意見である。一方で肝心のNHKは,特に意見を提出せず,沈黙を保ったままだった。