ここでいう手順書とは,例えば,監視手順書やオンライン運転手順書,バックアップ手順書といった個々の運用作業項目単位で作成する詳細作業マニュアル(作業手順書)のことを指す。一般的にはこれらのドキュメントは,開発フェーズにおいてIT基盤構築チーム(運用基盤チーム)が主管となって作成して,運用保全の準備フェーズにおいて,保守運用の主管グループが引き継ぐことになる。

 引き継ぐ前の手順書は,あくまでも個別の作業がメインで記述されているドキュメントである。実際には,作業を実施するときの運用体制や作業承認者,作業スケジュール,報告様式,緊急時対応方法,ほかの運用業務との関連,作業品質指標値など,運用ルールに基づいた作業フローを保守運用グループで追加検討する必要がある。これらの項目を作業手順書の上位文書として記載して,その作業フローから各手順書にリンクを張るか,もしくは,手順書の中に追記すべき作業フローなどを記載していく必要がある。

手順書のあいまいさが運用品質のバラツキにつながる

 上記のような運用ルールが記載されていない手順書を使って運用作業を実施すると,作業の受け付け方法や作業の品質基準がブレたり,作業終了時の連絡・周知ルールがあいまいだったりするなど,運用担当者によって作業内容や品質にバラツキがでることになる。

 例えば監視業務において,新規の監視対象ノードの追加作業で,「監視ツールへの監視ノードの追加が正常に終了したら,次に○○作業を実施…」と記載された手順書があったとする。このとき,ノード追加作業が正常終了したことの確認基準があいまいなため,GUI上でノードが追加されたらOKとするのか,ログファイルを確認してエラーが出ていなければOKとするのか,試験的にエラー・メッセージを送って正常に表示されたらOKとするのか,担当者によって判断にバラツキがでてしまう。

 また,正常終了を誰が判断(もしくは承認)して次の作業に進むのか,その証跡をどこに記載するのか,異常時に誰にエスカレーションするのか,といった内容もこの手順書には記載されていないかもしれない。

 運用現場によっては,運用ルールは特定の運用管理責任者の頭の中にすべて入っていて,この責任者に聞けば何でも分かるのかもしれない。現場経験が長い担当者なら,暗黙のルールとして記憶しているかもしれない。しかしながら,このような状況は属人化を助長し,運用の見える化を阻害する要因にもなる。運用ルールは明文化しておく必要がある。

運用ルールを運用作業手順書に盛り込む

 上記の例の場合,作業の正常確認となるチェック基準(ログ確認と状況コマンド投入の2パターンで確認作業を行なうなど)や作業の実施体制(必ず2人で作業を実施するなど),作業終了時の報告先と終了基準,作業証跡の様式と保管先などが運用ルールとしてあらかじめ規定されていれば,これらの内容を作業フローに盛り込んだ「運用作業手順書」を完成させることができる。また共通のルールに基づいた作業フローが明文化されることで,作業品質の確保だけでなく,作業の見える化や,作業間の情報共有も可能となる。

 このような運用ルールを作成する基盤となるのが,全社レベルで定めた運用管理ポリシーである(図1)。企業のルールとして,運用フェーズでの共通的なルール(システムへの変更・リリースの承認者は現場の管理責任者以上の権限をもつものに限るなど)や必ず実施すべきプロセスなどを規定しておく。

図1●運用管理作業におけるドキュメント体系
図1●運用管理作業におけるドキュメント体系

 その上で,図2に示すように,運用ルールに基づく作業手順を作り込む。それにより,個々の運用作業フローを明確に規定することができるのである。運用ポリシーをベースに運用現場において運用作業手順を検討すれば,全社レベルでの運用標準化を図ることもできる。

図2●ドキュメント体系の具体的なイメージ
図2●ドキュメント体系の具体的なイメージ

西之上実(にしのうえ みのる)
NTTデータ SIコンピテンシー本部 QMS運営部
システム保全管理担当 課長
シニアITスペシャリスト(システム管理)
NTTデータ入社後,UNIXを中心としたオープン系システムの運用管理分野におけるSEとして複数の開発プロジェクトに参画。SLAやITILなどの運用標準化技術に先行的に取り組み,全社向けの運用管理規約の作成やシステム管理系開発方法論の作成などに従事。その後,NTTデータ先端技術に3年間出向して,ITILのコンサルティングや運用基盤構築などのシステム管理系ビジネスを展開。2009年度からNTTデータに復帰し,全社システムを対象にした運用フェーズでの品質強化や効率化のための規約作成,ツール開発に取り組んでいる。