開発工程が終盤に差し掛かり,総合試験/総合運転試験のフェーズになると,ようやくサービスの提供開始が見え始める。サービスの開始は,すなわち保守運用工程の始まりである。しかしながら,保守運用工程が近付くたびによく問題となるのが,開発工程からの十分な引き継ぎができていないままにサービス提供開始を迎えてしまうことである。

 サービス提供開始後に,開発チームと運用チームの仲がよくないという声も多く聞かれる。開発チームと運用チームが普段から一緒に業務を行なう機会が少なく,開発フェーズは開発チームに,運用フェーズは運用チームに任せておけばよいと,お互いの立場を考えたコミュニケーションがおろそかにされているのが原因の一つだといえる。

 では,開発と運用とのコミュニケーション不足はどのような影響をもたらすのであろうか。懸念される問題は,「人,ドキュメントの問題」「技術的な問題」「プロセスの問題」の大きく三つに分類できる(図1)。

図1●開発と運用のコミュニケーション不足により発生する主な問題
図1●開発と運用のコミュニケーション不足により発生する主な問題

運用スキルを考慮しない手順書がオペミスを誘発

 一つは運用手順書類に関する問題である。よくあるのは,運用作業者のスキルレベルを考慮せず,高度な知識を前提にした手順書や,作業判断基準があいまいな手順書を作成してしまうことだ。こうした手順書が,オペレーション・ミスを誘発してしまう。

 また,運用作業項目と手順書の作成単位が合わないということも起こりがちだ。運用準備フェーズで作業項目別に手順書を作り直す必要が生じたり,場合によっては運用手順書そのものが事前に作成されていなかったりすることもある。障害解析や復旧手順についてのドキュメントは特に少なくなる傾向にあるが,これは開発側が,自分たちにエスカレーションされる作業だと認識しているからかもしれない。しかし運用側からすると,開発側が十分な情報やドキュメントを出してくれないという不満につながる。

 ほかに影響の大きい事項として,開発から運用へ引き継がれるべき重要な項目がしっかり引き継がれていないことがある。例えば,システム上での制限値や有効期限などが設定されている項目一覧やその対処方法,また試験時に明らかになった既知エラー情報などである。,開発工程で実施されていない試験項目,SLAのうち開発で実装済みものと運用で対応すべきもの,システム構成要素の保守情報,などである。

 これらは時に大規模なシステム障害につながり,障害解決時間の増大にも影響する。そもそも,要件定義段階で開発側がユーザーと運用要件を十分に調整できていない状態のまま,運用側にその後の検討を任せてしまうことも少なくない。このことも運用チームに混乱を招く原因になっている。

 開発側と運用側の認識のズレから,技術的な問題が生じることもある。例えば運用管理ツールに関する問題はその一つ。コスト削減のため運用管理ツールを導入していないにもかかわらず,ツールによる自動化が前提の運用作業を想定して運用側が計画を立てるなどだ。運用管理ツールが実装されている場合でも,その機能を有効に使えず,自動化の恩恵を受けられていないこともある。

 また,保守メンテナンス用のスクリプト類を作成していないため,運用担当者が手動でコマンドを打ち込むなどの非効率な運用作業を強いられることもある。

開発の早い段階で運用主体を決定する

 これらの事象に共通していえることは,開発と運用の連携がおろそかにされ,十分な協議が行われないまま運用フェーズに入ってしまい,その結果として,オペレーション・ミス,運用負荷の増大,重大トラブル発生といった問題を誘発する可能性があるということである。

 企業によっては,保守運用工程の検討はサービス開始前までに始めればよいと安易に考えているところもあり,運用主体がどこになるのか,最後まで決定しない場合もある。つまり,開発が運用とコミュニケーションを取ろうとしてもできない状況もあるということである。このような場合は,開発工程では運用を意識した設計や実装を行うことがでず,前述したような問題が発生する可能性が高くなる。

 このような状況を避けるためにも,開発の早い段階で運用主体を決め,開発と運用で定期的な意識合わせの場を持ちながら,効率的でかつ品質の高い運用を目指して協力することが重要である。大切なのは,連携不足によるリスクをお互いが認識して,それぞれの立場に立って検討を進めることだ。

 例えば,要件定義段階から運用チームのリーダーを開発側の定例ミーティングに参加させたり,運用側が運用受け入れのための品質基準を作成して,開発メンバーと定期的な打ち合わせを実施したりするとよい。また,開発チームと運用チーム間でのメンバーのローテーションを実施したり,両者が集まって勉強会を開催したりするなど,意識的に開発と運用でコミュニケーションをとれるような環境を作ることが重要である。

西之上実(にしのうえ みのる)
NTTデータ SIコンピテンシー本部 QMS運営部
システム保全管理担当 課長
シニアITスペシャリスト(システム管理)
NTTデータ入社後,UNIXを中心としたオープン系システムの運用管理分野におけるSEとして複数の開発プロジェクトに参画。SLAやITILなどの運用標準化技術に先行的に取り組み,全社向けの運用管理規約の作成やシステム管理系開発方法論の作成などに従事。その後,NTTデータ先端技術に3年間出向して,ITILのコンサルティングや運用基盤構築などのシステム管理系ビジネスを展開。2009年度からNTTデータに復帰し,全社システムを対象にした運用フェーズでの品質強化や効率化のための規約作成,ツール開発に取り組んでいる。