開発失敗の責任の所在を巡って裁判に発展、契約内容が一因でプロジェクトを中止――。ともに最新の実例だ。「発注元が陥りやすい契約の落とし穴」は従来から指摘されてきたものがいくつもある。にもかかわらず契約がらみのトラブルが後を絶たない。最新事例を基にその理由と解決策を探った。

 新システムが完成しなかったのは日本IBMの責任――。今、ある企業と日本IBMの裁判が東京地方裁判所で進行中だ。日本IBMを訴えたのは、北海道の給与計算代行業者エコミックだ。

 エコミックは日本IBMに給与計算システムの開発を発注したが、実装まで至らずにプロジェクトは中止となった。「請負契約を交わしたのにシステムが完成していないのだから日本IBMの債務不履行だ」というのがエコミックの主張である。これに対して日本IBMは準委任契約を主張し、契約上の義務は果たしたと反論している(図1)。

図1●システム開発の失敗を巡り、発注元が日本IBMを訴えた裁判(係争中)の経緯と両者の主張
図1●システム開発の失敗を巡り、発注元が日本IBMを訴えた裁判(係争中)の経緯と両者の主張
[画像のクリックで拡大表示]

 企業を10年未満で退職した人の年金関連業務を担う企業年金連合会は2009年3月、年金記録管理システムの全面刷新プロジェクトを中止した。

 二つのトラブル事例には共通点がある。発注元と受託企業の間で交わした「契約」が発端となっていることだ。問題となったのは「準委任か請負か」あるいは「著作権の帰属」といった点であり、いずれも昔から指摘されている“落とし穴”だ。新しくはないが、いまだにトラブルになるということは、契約に関連するリスクが十分に理解されていないことを示している。

 ここ数年、受託企業は採算重視や赤字案件の削減などの取り組みを強化してきた。これにより発注元が契約の落とし穴に陥るリスクが大きくなっている(図2)。発注元が、費用面などでより有利な条件を提示する受託企業に仕事を頼むようになり、結果として既存システムの改修や機能強化を既存の受託企業とは異なる企業に任せるケースが増えてきたことも、契約リスクを高めることにつながっている。

図2●発注元がIT関連の法務知識を知っておく重要性がより高まっている
図2●発注元がIT関連の法務知識を知っておく重要性がより高まっている
[画像のクリックで拡大表示]