オリンパスの北村正仁コーポレートセンターIT統括本部本部長

 オリンパスの北村正仁氏は2009年7月にCIO(最高情報責任者)に就任した。エンジニアとして入社して光ディスク装置の開発などに携わってきた北村氏は、およそ6年前の2003年4月にIT(情報技術)部門に異動した。ユーザー部門側から転じた北村氏は、斬新な発想で同社の大型ITプロジェクトを成功に導いた。

 この大型ITプロジェクトとは、2007年5月までの5年間、投資額は100億円近くを費やしたERP(統合基幹業務)パッケージ導入プロジェクトである。国内の会計、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)、人事、販売・物流のシステムを、独SAPのERPパッケージで段階的に刷新していった。

 プロジェクト初期にCRMシステムの導入を担当したとき、北村氏は斬新な発想をプロジェクトに取り入れた。業務プロセスの整理・分解をまず徹底的に行ってからシステムの機能を当てていくやり方で、開発費を抑制しながら円滑にプロジェクトを進めたのだ。「フィットギャップ分析をして、ギャップ部分は、業務をシステムに合わせるか、アドオンモジュールを開発するかして埋める」というIT導入プロジェクトの常識を覆した。

 今はSCM(サプライチェーン・マネジメント)とCRMとECM(エンジニアリングチェーン・マネジメント)の3機能を強化しながら、国内IT基盤の活用推進に奔走している。例えば多数の海外現地法人のIT部門との連携を深め、グローバルなSCMデータベースを再構築しているところだ。

 そんな北村氏の人材育成ポリシーは「脱・システム屋さん」だ。「基本的に社内にIT部門がある理由は、そこで付加価値を生むため。単なるシステム屋さんの集団だとすれば、中国とかインドとかに安い会社がいっぱいある。システムを言われた通りに作るだけならそこでいい」と話す。社内のIT部門だからこそ、社内のビジネスや技術、会社の動向を熟知したうえで、それをいち早くITに反映できる人材に育ってほしい、というわけだ。

 それゆえ、ITスタッフが現場の知識なり、経験なりを得る機会を積極的に作ろうと心がけている。「これはものすごく時間がかかるし、魔法があるわけではない。地道に、IT部門の人材を事業部門に出して経験させて戻したり、逆に事業部門から人材をどんどん採ってくる。そういうことをかなり積極的にやっている」と語る。

 IT部門ほど会社の隅々にまで入り込める仕事はない。「考え方を変えれば、こんなに恵まれた、やりがいのある仕事はない」と北村氏は微笑む。やる気さえあれば、経理の仕事も、人事の仕事も、物流の仕事も、製品開発もできる。技術も業務も経営の在り方もほかの人より知ることができる。北村氏はそうITスタッフに呼びかけている。

 人材育成の面で、北村氏自身も心がけているのが、外部の勉強会などに積極的に参加することだ。部下にも「積極的に外に出よう」と話している。「ギブ・アンド・テイクの発想で、まずギブでいろんな社内のIT活用の話をする。講演や取材もそう。話をすれば、付き合いのなかった会社やITベンダーから声がかかり、フランクにいろんな話ができるようになっていく。すると、自分たちの取り組みの立ち位置やレベルが分かってくる」。ITベンダー主催のユーザー会など、複数の企業が集まる場が多いのがIT業界の特徴である。北村氏はそこにもITの仕事の面白さを感じている。

Profile of CIO
◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・よく言われる事ですが、IT視点・技術視点で話をしないこと。あくまで、経営視点・事業視点で考え・説明できる事が重要。経営トップとのコミュニケーションに限らず、CIOの最大の使命は「ITを経営者の視点で考えられるか」に尽きると考えています。メンバーへは、「社長に成り代わって会社のITを考える仕事」と説明しています。

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・「何でもやります」と言う会社は信用できません。自社の何が優れた点なのか、他社とどこが違うのか、が説明できなければプロフェッショナルとは言えないのです。国内のITベンダーには、是非“プロ”になってもらいたい。

◆ストレス解消法
・ストレス解消法ではありませんが、自分の思い通りいかない時や、気に入らない状況になった時は、自分の“感情”を抑えずに、その気持ち(怒ったり、落ち込んだり)をそのまま受け入れる。一方で、その自分を客観視する別の自分を置いて、感情とは別に次にとるべき“行動”を考えて実行・行動します。行動を変えて行くと、そのうちに感情も平静さを取り戻せますので…。