経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 私は22歳でこの世界に入り、今52歳になりました。“システム屋”としての歴史は30年になります。30年前の様子については、第24回に少し書きました。コンピュータ機器が高価なだけではなく、それを扱うシステム技術者、すなわち“システム屋”にも希少価値がありました。

 この30年間の技術進歩、コンピュータ普及にはすさまじいものがあります。

 さらに30年間で、日本ではシステム会社が次々と創業されました。上場企業・大企業に成長した企業も少なくありません。しかし、技術は進歩しているというのに、経営者や管理職の考え方には全く進歩がないという実感を、私は持っています。

 「技術進歩に追い付かなければならない」「ユーザー企業の情報システム部門と比べて負けてはならない」「米国発のさまざまな流行に遅れを取ってはならない」といった強迫観念に駆られつつ、「IT(情報技術)バブル」などの時期には「人が足りない」といったかと思えば、今は「人が余っている」と嘆息する。それがシステム会社における経営者の実情でしょう。

 欧米で発明された自動車や複写機の分野では、日本企業は今や世界をリードする技術力・品質を誇ります。ところが、ソフトウエア分野では追い付く様子が全くありません。製造業ばかりでなく、コンビニエンスストアといったビジネスモデルでさえ発明国である米国を凌駕(りょうが)した日本ですが、情報システムの分野では、後発のインドや中国に追い抜かれてしまいました。日本人の勤勉さや向上心は、ソフトウエア・システム事業の分野では生かせないものなのでしょうか。

 インドや中国に対抗するためにシステム会社の経営者は、ソフトウエアの生産性を高める努力をするのではなく、第19回第20回で書いたような“偽装請負”に手を染めて、コスト削減に奔走しています。

システム会社の経営者が進歩すれば、解決できる問題

 “システム屋”とは、1カ月いくらで雇うタイプの、「日雇い」ならぬ「月雇い」の肉体労働者なのでしょうか? コスト削減を考える以外に打つ手のない経営者の下で閉塞(へいそく)感を感じる若い技術者たちは、なんとかシステム会社以外の会社に転職できないかと考えたり、第15回(「コンサルタントになりたい」という逃避願望)で書いたような幻想を抱いたりしてしまいます。これはとても不幸なことです。

 こうした問題は政治や法制度などに起因するものではありません。“システム屋”自身、特にシステム会社の経営者が進歩すれば解決できる問題であり、解決すべき問題です。

 システム会社はやるべき投資をしておらず、目指す姿をきちんと描ききれていないと感じます。蓄積するべきノウハウが的外れだったり、人材育成や評価の方法に問題があったりすることも確かです。

 こうしたシステム会社の経営者の問題について、若手“システム屋”の方々に意見を聞いてみたいものです。

次回に続く

佐藤 治夫(さとう はるお)氏
老博堂コンサルティング 代表
1956年東京都武蔵野市生まれ。79年東京工業大学理学部数学科卒業、同年野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。流通・金融などのシステム開発プロジェクトに携わる。2001年独立し、フリーランスで活動。2003年スタッフサービス・ホールディングス取締役に就任、CIO(最高情報責任者)を務める。2008年6月に再び独立し、複数のユーザー企業・システム企業の顧問を務める。趣味はサッカーで、休日はコーチとして少年チームを指導する。