本研究所では、クラウドコンピューティングについて、モバイルソリューションの観点から企業の情報システムを考えます。第1回第2回では、経営者やユーザーの観点から見た、クラウドの価値や本質について言及しました。今回からは数回に分けて、モバイルの視点から、企業システムにとってのモバイルソリューションの価値や本質を考えてみます。第3回は、モバイルワークスタイルが求められる背景に着目してみましょう。

 近年、企業においては固定費の変動費化や労働力調整の観点から、派遣社員や契約社員を多く取り入れてきました。しかしながら昨今の経済状況の悪化で契約切り・派遣切りが短期間に実行されたことは記憶に新しいと思います。

 また、正社員として働かずにフリーターを選ぶ(選ばざるを得なかった)人も少なくない状態になってきました。こういった流れからここ数年来、雇用形態の多様化が様々な観点から社会問題として扱われ、十数年前の日本では考えにくかったような多様なワークスタイルが生まれ始めています。

 雇用形態だけでなく、労働環境も大きく変化しました。厚生労働省が推進している「テレワーク(ITを活用して時間と場所を自由に使った柔軟な働き方を週8時間以上する人)」の比率は、2007年時点で約14%に留まっています。その後のアクションプランでは、2010年には目標である20%を超えるよう計画されました。

 さらに、みなさんが実感している通り、この10年で通信ネットワーク速度とコンピューティングパワーは劇的に向上しています。ネットワークの通信速度は10年で300倍超(288キロビット/秒から100メガビット/秒に)、プロセサの処理能力(集積度)は10年で単純計算では250倍超(ムーアの法則から18カ月で性能は2倍、10.5年だと7期分になるので、2の7乗、すなわち256倍になっているハズ)になりました。

ビジネススピードに、個人の生産性では追いつけない

 しかしながら、はたして個人の処理能力は上がったでしょうか?先日も、日経BP社主催のセミナーで講演した際に、この話題を挙げ「例えば生産性が数十倍に上がりましたか」と質問したところ、およそ150人の受講者の中で手を挙げられた方はいませんでした。

 そりゃ当たり前です。既に個人の処理能力の限界を超えてコンピューティングパワーが向上しており、それによって処理されるビジネススピードは個人の生産性だけでは追いつけないほど劇的にスピードアップしているのですから。そこへ追い打ちをかけるように「仕事の質」や「成果主義」が導入されているため、ワークスタイルも必然的に変わるというものです(図1)。

図1●ワークスタイルが変化しても生産性はあまり変化していない
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 とはいえ、ゆとり教育や個性重視の時代背景からか、仕事において頑張る人と、気負わず頑張らない人のギャップも、実際のコンサルティング現場で目に付くようになりました。ワークスタイルに対する価値観の多様性です。頑張る人はオフィスだろうが自宅だろうが、カフェだろうが、所構わず仕事をしている姿を、皆さんも目にしていることでしょう。

 筆者自身も、カフェというと「ゆっくりする場所」というよりも、「働く場所」という意識の方が強くなってきます。つくづく「テレワーカー」あらため「モバイルワーカー」だなと感じることが多々あります。