最適な進路を選び出し提示してくれるナビゲーションシステム。自動車用の“カーナビ”は珍しくはないが、コンテナ船や自動車運搬船などを対象に、最適な航路を選び出すためのナビゲーションシステムが登場している。台風などの気象情報だけでなく、船舶の構造的な特徴を加味しながら、三つの最適航路を提示する。

図1●「Sea-Navi」が示す最適な航路の例
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 海運業界においても、CO2(二酸化炭素)の排出量削減は大きなテーマになっている。CO2削減は、燃料コストの削減にもつながるだけに、いかに燃費が良く環境負荷が少ない航路を進むかは、船長の腕の見せどころだ。そんな船長を助けるナビゲーションシステムがある。造船専業大手であるユニバーサル造船が、船会社の協力を得て開発した運航支援システム「Sea-Navi」がそれだ(図1)。

 Sea-Naviは、人の判断だけに頼らず、データに基づいて最適な航路を提示することを目指して開発された、いわば“海のカーナビ”だ。船舶の安全性や航行速度、燃費などは、航路上の天候や、波や風の状態によって変わってくる。Sea-Naviでは、衛星通信を介して入手した海気象予測データを基に最適な航路を算出、どの航路を採るべきかを地図画面に表示する。

 一般に航路は、天候予測などのデータを踏まえて船長や航海士が判断する。船長らによっては、安全性や時間など重視する点が異なるほか、航海経験も違う。そのため、最適と判断する航路が異なる可能性がある。特に昨今は外国籍の船長や乗組員が少なくないため、航路判断にバラツキが出始めている。ここをSea-Naviで補おうというわけだ。

最短距離が最短時間ではない

 一口に「最適進路」といっても、航路においては、自動車のように最短時間で目的地に到着する経路だけを表示すればよいというものではない。Sea-Naviでは、「最短距離航路」と「最小燃費航路」を加えた三つの進路を算出・表示する。

 特定の航路を除けば、渋滞がない海上とはいえ、最短距離が最短時間の航路になるとは限らない。海流や波の影響で船体への抵抗が高まると、速度が落ち、到着までの時間がかかってしまう。例えば、22~23ノットで進む船が高さ3メートルの波を受けると、速度は1~2ノット落ちるという。速度を上げるには、それだけエンジンを回さなければならないため、余分に燃料を消費することになる。

 同様に最短距離航路と最小燃料航路も異なる。短い航路を取っても、波風が多いと速度を上げなくても燃費に影響する。例えば、波が高いとスクリューが海面に出てしまい、推進力が効率よく伝わらなくなるなどの可能性があるためだ。

 ユニバーサル造船 商船・海洋事業本部基本設計部の山崎 啓市氏は、「当社の試算では、年間の燃料コストを5%削減できるという。北太平洋の波が高い冬の時期であれば、15~20%削減できるとみている」と話す。

 海気象の予測データを基に航路を指南する仕組みは、「ウェザールーティング」と呼ばれ、複数のシステムやサービスが提供されている。既存システム/サービスとSea-Naviが異なるのは、「船体の特徴を踏まえ、船体流体力学の手法を使って航路を算出している点」(山崎氏)という。

 造船メーカーが開発したSea-Naviは、船の状態を陸上から把握する「モニタリングシステム」と、船体の疲労度を予測する「保守・管理システム」の二つの機能も持っている。

 「モニタリングシステム」は、船の持ち主である船会社が現在就航中の船の状況を把握できるようにするための機能。ユニバーサル造船が衛星通信を介して船内のSea-Naviパソコンから得た船のデータを、船会社にインターネット経由で送信する(図2)。

図2●「Sea-Navi」には三つの機能が搭載されている
図は検証実験における構成。製品化する際には、陸上管理センターは他社が運用する予定
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