日立製作所 地球環境戦略室 部長
IEC 環境配慮設計WG 国際主査
市川 芳明

 前回に紹介したテレビの実施措置案は,2009年7月23日に2009/642/ECとして発行した。さらに同じ日にはモーター(2009/640/EC),温冷媒循環器(2009/641/EC),冷蔵庫(2009/643/EC)も同時に発行され,これで正式発行された実施措置(IM)の数は合計で9件となった。

 またIT関係者が気になるネットワークスタンドバイのPreparatory Studyも開始された。このくらいの数が揃うと,すでに多くの企業にとってEuP指令が切実な問題となってきているといえるだろう。また実施措置間の相互の絡みも出てきており,筆者にも社内外から複雑な質問が多数寄せられるようになってきた。今月にはシンガポールと東京で,セミナーを実施する機会もあるので,皆様と直接言葉を交わしたいと思っているが,本稿では前提となる実施措置について基本事項を解説する。

 さて,今回はいよいよ「待機・オフモード」について解説する。文書は1275/2008./ECである(図1)。公布日が2008年12月18日,20日後の2009年1月7日に発効された。なお,以下で述べる実施措置本文の日本語訳については全て筆者の仮訳であることをご容赦いただきたい。タイトルも丁寧に訳すと,「家庭用およびオフィス用電気電子機器の待機モードとオフモードの電力消費についての環境配慮設計要求に関する実施措置」となるが,ここでは「待機・オフモードの実施措置」と省略する。

図1●「待機・オフモード」の実施措置
図1●「待機・オフモード」の実施措置
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「待機・オフモード」での消費電力はEU全体で年間470億kWh

 日本の方々の中には,なぜ待機電力がこれほど問題になり,全実施措置の最初に出てくるほどに重要視されたのかを疑問に思われることだろう。

 序文の4項には次のようなEUの事情が書かれている。まずEU全体で待機モードとオフモードでの電力消費量は2005年で47TWh(日本で使われる単位では470億kWh)もあるそうである。一年間の時間数365×24で割ると,537万KWが常時使われていることに相当する。これは原子力発電所数台分の勘定になり,温暖化ガスの排出量1900万トンに相当する。さらに,このまま放置すると,2020年には49TWhに増加する見込みとのこと。この実施措置による効果として,序文13項には,2020年に35TWhを削減する推定が書かれている。

 2008年6月に公表されたWorking Documentにはさらに詳しく書いてあって,対象となる機器の台数として2005年が37億台,2020年には46億台に上ると書いてある。この数値から全ての時間が待機モードとオフモードだと仮定して単純に計算すると,2005年が一台平均で1.45W,2020年は0.35Wになる。実際には実稼働時間分があるのでこれほど厳しい数値ではないが,1Wを割り込み,0.5W前後の数値が必要ということになる。そして,まさに本実施措置の要求事項がこの数値にリンクしているのだ。

家電や情報機器,AV機器やゲーム機も規制対象に

 この実施措置の対象はまず第1条に「electrical and electronic household and office equipment. (家庭用とオフィス用の電気電子製品)」書かれているのみである。しかし,その定義が第2条に与えられている。

第2条(定義)
1項:
「家庭用とオフィス用の電気電子製品」とは,下記の条件を満たす機器で,家庭用やオフィス用以外の用途に販売されているものも含む。
a) 単独機能ユニットとして市販が可能であり,最終消費者向けである。
b) 附属書1のリストに該当するもの。
c) 意図された働きをするために商用電源からのエネルギー入力に依存するもの。
d) 公称定格電圧250Vまたはそれ以下である。

 この定義中で重要な附属書1のリストをみると次のように書かれている。

附属書 1
1.家電品(Household appliances)
洗濯機
衣類乾燥機
食洗器
調理器(電気オーブン,ホットプレート,電子レンジ,トースター,揚げ器,削り器,コーヒーメーカー,包装容器を開封器,電気ナイフ,その他調理用,食材加工用機器)
その他清浄用機器
その他衣類のメンテナンス機器
散髪,毛染め,歯ブラシ,髭剃り,マッサージその他ボディーケア用機器
2. Domestic環境において使用されることを主(primary)に意図した情報技術機器
3. 消費者用機器
ラジオセット,テレビセット(既に2009/642/ECにより削除改正),ビデオカメラ,ビデオレコーダ,ハイファイレコーダ,オーディオアンプ,ホームシアター,音楽機器 その他音や映像を録画または再生する目的を持つ機器(通信を除く,音や映像を配信する信号あるいは技術手段を含む)
4. 玩具,レジャー,スポーツ機器
鉄道模型,レーシングカーセット
携帯型ビデオゲームコンソール
電気電子部品を内蔵するスポーツ機器
その他,玩具,レジャー,スポーツ機器

 附属書1を見ればかなり明確なものもあるが,それでもなお,判断に困るものもある。特に,2.項の情報機器関係は,読者にも関心が深いはずである。一括りにされているところが厄介だが,やはり2条に追加で定義されている。

第2条(定義)
7項:
「情報技術機器(information technology equipment)」とはデータまたは通信メッセージを入力,保存,表示,取り出し,伝送,処理,スイッチングする機能あるいはこれらの組み合わせの機能を主機能(primary function)として有する機器であり,典型的には情報伝送のための一つまたは複数の端末ポートを持つものがある。
8項:
「domestic環境」とは当該機器の10m以内でラジオあるいはテレビ受信機の使用が想定される環境を意味する。

 これでも,「私の機器は該当するのか」がわからないことがある。この議論については最後に改めて確認したい。