山下 克司 氏
日本IBM グローバル・テクノロジー・サービス事業部 ITSデリバリー ディスティングイッシュト・エンジニア
山下 克司 氏

 「ネットワークエンジニアに限らず,ITエンジニアは専門領域のスキルとその周辺スキル,いわば漏斗型のスキルが必要です」。こう後進にアドバイスを送るのは,日本IBMグローバル・テクノロジー・サービス事業部ITSデリバリー ディスティングイッシュト・エンジニアの山下 克司氏。専門たるネットワークの知識は深く,ネットワークを基盤とするIT全般の知識は広く。そんなスキルセットを得るのが,ネットワークエンジニアの最終目標となる。

 一昔前は,オフィス内のネットワーク(LAN)やオフィス同士を結ぶ広域ネットワーク(WAN)を安定的かつ安価に構築する設計に専念すれば十分だった。まだネットワークが発展途上の時代。技術の先を見誤ればせっかくの機器投資が無駄になり,製品の選択を誤ればネットワークが連日ダウンする。「つなぐ」ための信頼性の向上やコストの最適化を果たすだけで,ネットワークエンジニアとして十分,一人前だったのだ。とにかくその時々の主要なネットワーク技術,今ならTCP/IP,シェア上位の米Cisco Systems製品に精通することが力量を決めていた。

 現在のネットワークエンジニアは,これらの知識だけでは立ちゆかない。ネットワークを流れるデータの中身は,コンピュータ同士がやり取りする数々のメッセージである。そのメッセージ群が織りなす“もう一つの論理ネットワーク”の構成を知らなければ,トラブル発生時の原因切り分けさえ,ままならない。コンピュータがうまく動くかどうかはSEにお任せ,というわけにはいかない時代に入りつつある。

まずは標準技術の知識習得から

 これからのネットワークエンジニアは,ネットワーク構築のスキルはもちろん,ネットワークがかかわる要素についての知識も求められる。

 ネットワークは通信サービス,ネットワーク機器,サーバー/クライアント,さらには各種アプリケーションと,かかわる要素が幅広い。通信サービスなら回線速度や信頼性の度合い,ネットワーク機器なら機能ごとの処理能力と,把握すべきパラメータは多岐にわたる。

 ネットワークエンジニアのキャリアアップは,新卒入社にせよ他のIT職種からの転職にせよ,まずはTCP/IPのような基礎となる通信技術(プロトコル)とそれに基づいて動作するネットワーク機器への習熟から始まる。

 プロトコルはその多くが標準化されており,書籍やドキュメントは充実している。TCP/IPに代表される標準技術を書籍で学びながら,Ciscoに代表される主要ネットワークベンダーの資格を取得する。上位資格は狭き門で,その取得だけでスキルとして通用する。このためネットワークのスキルを身につける術の充実度は,他の職種に比べると比較的恵まれていると言える。

 そのぶん,セクショナリズムに陥りやすい。「標準技術で構成されているため,その境界が明確です。スキルの壁が出来やすい仕事と言えます」(山下氏)。

 さらに“上”を目指すのであれば,ネットワーク以外のスキルに目を向ける必要がある。

 山下氏のキャリアは,アプリケーション開発への従事からスタートした。プログラマとして腕をふるい,データベースへの理解を深めていった。機能として使うだけなら,データベースの基礎理論を学ぶ必然性はない。ただ山下氏は「基礎的な理論を学んでおけば,経験が腑に落ちる」というポリシーのもと,バックグラウンドの理論を追い続けた。「機能を学ぶだけでなく,その背景にある理論を知りたくなります」。この姿勢は,ネットワークエンジニアとしてのキャリアをスタートさせた以降も変わっていない。

[画像のクリックで拡大表示]