エンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)2009のイベント会場で実施した「パンデミック対策検定」の解答を解説します。パンデミック対策を計画する立場にある方はもちろん,一般部門の責任者やリーダーも理解しておきたい内容です。
なお,私たちが現在直面している新型インフルエンザの脅威は,その規模においても,拡大のスピードにおいても人類にとって未知ものです。従ってガイドラインや法制度などに,まだ考慮されていないと思われる点があることは仕方のないことだと思います。「パンデミック対策検定」にはあえてこのような問題をいくつか取り入れています。難しいけれども決して避けて通れない問題です。今回の検定が,これらの問題への対策を社内で議論するきっかけになれば幸いです。
ご注意:労働基準法などの法律は実際のケースにより専門家の間でも判断が分かれることがあります。対応の検討を行う際は必ず社会保険労務士や弁護士などの専門家を交えて進めてください。
新型インフルエンザ関連の基礎知識
カゼ(普通感冒)とインフルエンザ(流行性感冒)の関係について,正しい説明は次のどれでしょうか。
【選択肢】 | 正解 | |||||||||
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正解はCです。
カゼの代表的なものは上気道(鼻や喉)にライノウイルスなどが感染して炎症を起こすものですが,重篤な状態には至りません。一方,インフルエンザはインフルエンザウイルスによって起こされる感染症で,高熱や関節の痛みなどが特徴。全身疾患で時に死亡するケースもあります。両者は治療法も治療薬も異なる病気です。
新型インフルエンザに感染した後で,新型インフルエンザワクチンを接種しました。この場合,治療効果は期待できるでしょうか。
【選択肢】 | 正解 | |||||||||
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正解はAです。
新型インフルエンザワクチンは予防薬であり,感染後に接種しても効果は期待できません。予防効果は接種後おおむね2~6週間後から現れます。
新型インフルエンザウイルスの毒性は,時間経過とともに,どのように変化するでしょうか。
【選択肢】 | 正解 | |||||||||
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正解はCです。
自治医科大学教授で現在,新型インフルエンザに関する政府の専門家諮問委員会委員長を務める尾身茂氏は,以前テレビ出演した際に同様の質問を受け,「インフルエンザウイルスには人生観がない…強くなろう,弱くなろうなどという意識はなく全方向に同じように変化していく」と回答されました。実に的を射たお話です。
ウイルスの遺伝子情報はRNAにより次の世代に受け継がれますが,人間のDNAに比べ複製時に1000倍近く間違いを起こすといわれています。この間違いによる多様化がウイルスの最大の武器です。しかも,細胞分裂のスピードが人間より格段に速いため,一説にはウイルスの1年の変化は人間の100万年の進化に相当するとも言われます。
尾身教授が指摘する通り,ウイルスの毒性は強くも,弱くもなります。同様に感染力も強くなったり,弱くなったりします。感染力が強く,毒性も強いウイルスが現れるのは時間の問題ということになります。
「タミフル」や「リレンザ」などの抗インフルエンザ薬には,どのような効果があるでしょうか。
【選択肢】 | 正解 | |||||||||
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正解はCです。
タミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ薬は,ウイルスの増殖を抑えることはできますが,ウイルスそのものを殺すことはできません。感染後24時間~36時間以内に投与が必要とされているのはこのためです。ウイルスを直接攻撃できる薬は,インフルエンザの治療薬としてはまだありません。