日立コンサルティング
マネージャー 米国公認会計士
河辺 亮二

 前回は,国際会計基準(IFRS)がもたらす情報システムへの影響を概観した。今回は,IFRS対応で求められる「複数帳簿の保持」という要件を満たすために,会計系システムをどのように機能強化すべきかを中心に説明する。

ダブル・スタンダードへの対応が必要に

 企業は通常,企業会計基準委員会(ASBJ)などが定めた公正妥当と認められる会計基準に従って記帳された取引を集約し,資本市場に対して開示する。これが「単体決算」である。各国の会計制度に基づいた決算処理手続きのもとで進める。さらに決算で確定した金額に基づいて税法固有の調整処理を施し,税務申告を行う。

 企業グループの決算を開示する際には,複数の国や地域,業種・業態で記帳した取引を,複数の決算日,異なる会計基準をベースに連結する処理を実行する。これが「連結決算」である。グループ各社の単体決算の金額をもとに,親会社の連結方針に合わせるための修正を施した上で開示する。

 たとえば米国SEC基準(米国会計基準)でニューヨーク証券取引所に上場している日本企業は,単体決算・開示を国内基準で実施し,法人税法に基づいて税務申告書を作成する。一方,連結決算・開示では,グループ一体で米国基準に基づいて実施することになる。企業はダブル・スタンダードへの対応が必要となるわけだ。

 それに伴い,企業内で単体決算と連結決算をそれぞれ異なる部署が担当するケースも生じる。企業内で開示目的が異なる複数の会計基準に同時に対応しようとすると,複数の会計制度・組織・帳簿すなわち情報システムを管理しなければならないことがお分かりだろう。

 さらにIFRSに対応するとなると,企業はIFRS特有の会計処理と開示に関する要求を満たさなければならなくなる。金融庁は2015年から2016年をめどに,上場企業の連結決算を対象にIFRSの適用を検討している。IFRSでは過去2期分の決算開示を求めているため,逆算すると早ければ2013年からIFRSに基づいた「連結決算書」を準備する必要があることになる。

 その際には,親会社と子会社で,IFRSに適合するための多くの連結修正処理が発生する。こうした経理業務の負荷を軽減するためには,業務ルールやシステムの改善などによる仕組みに関する効率化が必要になるだろう。

 ちなみに,日本にはSEC上場企業が約30社ある。これらの企業がIFRSを採用するとなると,ダブルどころかトリプル・スタンダードへの対応が必要になり,約4000社ある他の上場企業よりも負荷は大きいのではないか,と思われるかもしれない。

 しかし,実態は逆だと思われる。米国基準とIFRSを比べると,実質的に共通点が多いからだ。SEC上場企業以外の国内上場企業のほうが,IFRSの適用に向けて多くの工数が発生するとみられる。

IFRS対応に必要な情報システムの要件

 日本基準とIFRSというダブル・スタンダードに対応するために,情報システムにはどのような要件が求められるのだろうか。「収益認識」「固定資産管理」「税効果処理」のという3つの相違点の概要とともに,簡単に触れておこう。

収益認識

 IFRSでは売上の計上基準として,売り主から買い主へのリスクと経済価値の移転を厳密にとらえる方式を採っている。すなわち「検収基準」(商品の検収時点で売上を計上する方法)が原則となる。

 一方,日本の会計慣行では「出荷基準」(商品の出荷時点で売上を計上する方法)が広く認められている。この出荷基準に基づいて認識した売上高は,IFRSでは連結上,認められない可能性が高いと言われている。

 さらに,2010年度決算から日本の会計原則でも「工事進行基準」(工事の進捗度合いに応じて売上を計上する方法)が原則適用となった。IFRSでは,そもそも日本で主流である「工事完成基準」(工事が完成した時点で売上を計上する方法)の適用を原則禁止している。このように,収益認識ルールの違いが実務に与える影響は大きいとみられる。

 単体決算・税務申告は国内基準,連結決算はIFRSに基づいて開示するためには,会計システムで日本基準およびIFRSの双方に基づいて売上高を管理する機能が必要になる(図1)。

図1●会計システムで複数帳簿が必要になる例
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 日本基準とIFRSでは仕訳計上のタイミングが異なるので,販売管理システムと会計システムの連携に関するルールもそれぞれ別個に設定しておく必要がある。