床 直紀 氏
日立ソフトウェアエンジニアリング 品質保証本部 第4品質保証部 主任・QAスペシャリスト
床 直紀 氏

 「品質保証はとてもやりがいがある仕事ですが,SEなど開発系の仕事と比べると人気がありません。もっと多くのエンジニアに品質保証という仕事に目を向けて欲しいですね」。こう語るのは,入社以来,品質保証エンジニア一筋の床 直紀氏である。

 床氏は,電気通信大学電気通信学部情報工学科を2000年に卒業後,大手システムインテグレータの日立ソフトウェアエンジニアリング(日立ソフト)に入社した。「もともと『モノ作り』にかかわりたかった」という床氏にとって,システム開発を手がけるシステムインテグレータへの入社はごく自然だった。

 新人研修が終わった6月。「配属部門説明会」に参加した床氏は,そこで初めて品質保証という仕事を知る。配属部門説明会は,各部門の代表者が新入社員に自部門を紹介するもの。新入社員は,各部門の説明を聞いたうえで,第1志望~第3志望までの配属希望を出す。

 「品質保証本部の説明を聞いて,品質保証がシステム開発の重要な作業工程の一つであることを知りました。それなら,もともとやりたかった『モノ作り』にかかわれます。さらに,『開発部門よりも残業が少ない』という説明も魅力的でした」(床氏)。デスマーチや長時間残業が多い開発部門よりも「人間的なモノ作り」ができそうだと考えた床氏は,配属先の第1志望として品質保証本部を選択した。「品質保証本部を第1志望にした社員は,私以外は皆無でした」(床氏)。

 希望通り品質保証本部に配属された床氏は,以来ずっと,品質保証エンジニアとしてのキャリアを積み重ねてきた。

[画像のクリックで拡大表示]

システムの「作り方」もチェックする

 日立ソフトの品質保証エンジニアは,それぞれが1つまたは複数のプロジェクトを担当している。一人一人の品質保証エンジニアが,責任を持って,自分が担当するプロジェクトの「品質保証」に当たるわけだ。

 では品質保証とは何なのか。床氏によれば「開発中のシステムが,顧客に納めてもいい品質かどうかを評価すること」である。「品質保証と聞くと,出来上がったあとの『検査』というイメージが強いかもしれません。しかし今の品質保証は,システム開発プロジェクトの初期段階からプロジェクトにかかわって,出来上がった後だけではなく,『作り方』も含めてチェックします」(床氏)。

 品質保証エンジニアが何をチェックするかは各社で異なるが,日立ソフトでは主に次の3つをチェックしている。

 1つは,要件定義書や設計書,プログラムといったプロジェクトの成果物だ。特に要件定義書や設計書などのドキュメントに関しては,原則的にすべてに目を通している。目で見ても分からないときは,顧客によるレビューや開発メンバーによる内部レビューに参加して内容を確認することもあるという。時には,顧客の希望通りの内容になっているかどうかをチェックするために,顧客との打ち合わせの議事録も確認する。プログラムについては,ソフトウエアテストを実施したり,ソースコードを目視したりして,品質をチェックする。

 2つめは,開発プロセス,つまりシステムの「作り方」である。具体的には,プロジェクトの開始前にプロジェクトマネジャーが立案した計画と開発手順をチェックし,プロジェクトが始まったら,実際に開発現場に行って,計画と手順通りにシステム開発を進めているかどうかを監視する。

 3つめは,プロジェクト受注前の見積もりの妥当性だ。これらのうち,何をどれくらいチェックするかは,品質保証エンジニアがプロジェクトマネジャーと相談しながら決める。チェックの結果,問題がみつかった場合は,開発メンバーと協力して改善する。

 こうした品質保証活動には,ドキュメントやプログラムを客観的に評価するための「検査知識」と「業務知識」が欠かせないという。「業務知識は,開発メンバーと同レベルの知識が必要になります。そうでなければ,要件定義書や設計書の不具合は見つけられません」(床氏)。

 検査知識と業務知識に加えて,「できればネットワークやプログラミング言語,データベースなどの技術知識もあったほうがいい」と床氏は指摘する。「技術の知識があると,不具合の原因を自分で調べることができるため,こういう知識を持っている人は重宝がられます」。