室谷 隆 氏
TIS 技術本部 生産技術部 主査
室谷 隆 氏

 「プロジェクトが赤字にならないよう,危険な兆候が表れた時点で立て直しを図るのがPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の役割です」。システムインテグレータのTISでPMOスタッフを務める室谷 隆氏はこう語る。

 基本的に,プロジェクトが赤字にならぬように舵をとるのはプロジェクトマネジャーの仕事である。しかし,年々プロジェクトの内容は複雑になり,不確実要素が増えている。この状況のもとで,すべての責任をプロジェクトマネジャーだけに負わせるわけにはいかなくなった。プロジェクトマネジャーに過大な負担がかかれば,プロジェクトの頓挫や赤字転落につながりやすいからだ。

 そんな最悪の事態を避けるために,「プロジェクトマネジャーをさまざまな形で支援する組織」がPMOである。PMOの実務は会社によってさまざまだが,TISでは「プロジェクトレビューを通して,大規模プロジェクトに潜むリスクの芽を摘む」(室谷氏)任務を負っている。

リスクを見抜く眼を持つ

 プロジェクトレビューとは,成果物(計画書や設計書,プログラムなど)の品質や進捗状況,プロジェクトが現在抱えている課題やリスクについて,外部の専門家を交えて評価・助言を行う会議のこと。プロジェクトの主要工程(要件定義,設計・プログラミング,システムテストなど)の区切りめに開催する。

 室谷氏らPMOスタッフはプロジェクトレビューに同席し,特に「これから赤字になりそうなリスクの芽はないか,という視点で評価する」という。

 言葉でいうと難しさが伝わりにくいが,「何がリスクの芽か?」を見抜くには,それ相応の経験や知識がないと務まらない。室谷氏はシステム開発・保守のプロジェクトマネジャーを経験した後,2002年からはTIS社内でCMM(能力成熟度モデル)のテストプロジェクトを担当した。CMMとは,システム開発の作業を組織的に改善していくための体系を指す。

 2004年から4年間ほどは,情報処理推進機構(IPA)のソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)に出向。システム開発の理論や方法,ノウハウを体系化し,現場で活用できるようにする「ソフトウエアエンジニアリング」を深く学んだ。これらの経験が,PMOに求められる「リスクを見抜く眼」を養うことに結びついている。

 TISのPMOスタッフは現在4人。およそ30のプロジェクトを担当し,「毎日,一つか二つのプロジェクトをレビューしています」と室谷氏は話す。レビュー結果はPMOスタッフで共有し,識別したリスクは文書化して次のレビュー時に利用している。「やはり外部の目でリスクをチェックすることが重要です。2008年度の実績として,PMOが担当した約30のプロジェクトは一つも赤字になりませんでした」(同)。

お仕事解説:PMOスタッフ

マネジャーの個人的な資質だけに頼らない

 最近のプロジェクトマネジメントは,プロジェクトマネジャーの個人的な資質のみに頼らず,全社で組織的に支援することを目指している。PMOは,まさにこの活動を推進するための組織だ。

 ただし,PMOの実務面ではさまざまな解釈がある。(1)プロジェクトの外側からプロジェクトマネジャーを支援する,(2)プロジェクトの内部でプロジェクトマネジメントの実務を支援する,(3)システム開発案件を受注する際にプロジェクトのリスクを審査する――などだ。例えばTISでは,これら三つの役割を果たす組織やメンバーがそれぞれ存在するが,(1)を「PMO」の役割としている。

必要なスキル

  • プロジェクトマネジャーの経験
    プロジェクトに潜むリスクを見極めるには,システム開発やプロジェクトマネジャーの実務経験とそれらに基づく洞察力が不可欠。
  • リスクマネジメントの知識
    リスクを的確に読んで事前に対処策を立てるには,リスクマネジメントやソフトウエアエンジニアリングの専門的な知識が必要。
  • コミュニケーションスキル
    相手にとって「嫌な話」でも指摘しなければならない。なおかつ,相手を怒らせず,説得できなければならない。