東京都大手町にある三菱地所の本社で、「知的照明システム」と呼ばれる技術を使った実験が行われている。社員がノート型パソコンに向かい、何回か画面上をクリックする。しばらくすると、真上にある照明が徐々に暗くなる。別の社員の頭上では、白みがかった昼白色からやや赤みを帯びた光へと、蛍光灯が色を変えていく(写真1)。
社員がパソコンを使うのは、自分に合った「照度」を設定するためだ。照度はその場所の明るさを表す数値である。自分の座席をクリックし、そこに表示される目標照度の数値を変えると、その座席の周りにある複数の照明が明るさを調整し、その目標照度を実現する仕組みである。照明は、0から900ルクスまで50ルクス単位で自身の明るさを変更する(写真2)。
光の色合いを示す「色温度」も、好みを指定できる。三菱電機はこの実験にあたって、3本の蛍光灯を装着できる照明器具38台を採用。真ん中に電球色の蛍光灯を、残り2本は昼白色の蛍光灯を装着し、明るさを調整することで色温度も調整可能にした(写真3)。
この知的照明システムは、利用者の好みに合わせて照明の明るさや色を変え、仕事や作業の生産性を向上させる目的で開発された技術である。一般的なオフィスの照明の明るさは、業界の標準とされている750ルクス以上で、かつ昼白色であることが多い。
同システムを開発した同志社大学工学部の三木光範教授は、「照明が明るいオフィスは、事務作業には向いているかもしれないが、企画書を書くといった知的作業には向いていない」と指摘する。「照明を個別最適できれば業務効率が向上する上、必要以上に明るくする必要がなくなるため、省エネにもつながる」(三木教授)という。
最新のオフィスビルでも、明るさを自動調節する照明器具はある。ただそれは、外光に応じて一定の明るさを保つ目的の技術。センサーを使って、晴れの日も雨の日もオフィス内を750ルクスに保つだけだ。パソコンを使って、オフィスの利用者一人ひとりが照明を最適化するシステムは、これまでなかった。