2011年7月24日に予定される地上アナログ放送の停止まで,既に2年を切った。ちょうど停止の2年前に当たる7月24日には,石川県珠洲市においてアナログ中継局からの放送サービスを一時的に停波するリハーサルも行われた。今後は,アナログ放送が停波したあと,どうすればテレビを視聴し続けられるかについて,一般の関心が高まるだろう。現在,視聴者のデジタル放送環境移行への支援を行う事業体である総務省テレビ受信者支援センター(通称:デジサポ)が協力して,全国各地域で地上デジタル放送に関する説明会が行われ始めている。筆者は,地元(東京都中野区)において開催されていた説明会へ出向いた。

ケーブルテレビ視聴が7割にも達する中野区の事情

写真1 総務省から届いたレター
写真1 総務省から届いたレター
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 「昭和28年から放送されてきたアナログテレビ放送は2年後の平成23年7月24日に終了し,地上デジタル放送に完全移行します。このため,自宅の視聴方法を地上デジタル放送に対応させることが必要です」

 2009年7月に,こうした書き出しで「地上デジタル放送のしくみと地域説明会」のお知らせが筆者宅へ回覧板でまわってきた(ほどなくして,別に総務省からのメール便も届いた)。東京都中野区では,視聴者に対し地上デジタル放送への準備をしてもらうため,総務省東京都中央テレビ受信者支援センター(デジサポ東京中央)と協力して,区内全域で説明会を開催している。

 そもそも,中野区は大きく分けて,鷺宮から新井薬師までの西武新宿線沿いの北部,区役所があるJR中央線線沿いの中央部,中野坂上から中野富士見町など,東京メトロ丸の内線沿いの南部の三つに分けられる。東京23区の中でも南北に細長い地形だが,特に中央部から北部は新宿副都心の都庁などのビル街で,南部はNTTドコモ代々木ビルなどで東京タワーのアナログ・テレビ放送波が遮られるなどして,受信障害が発生している。

 これを解消するため,高層ビルの運営主体などが難視聴発生の原因者として費用を負担する形態で,区内各地において難視聴対策用のケーブルテレビ施設が整備されてきた。現在でも区内で相当数の世帯が地上アナログ放送を,ケーブルテレビ(JCN中野)経由という形で無料(月額の施設利用料を原因者が実質負担する)で視聴できている。約18万世帯の区民のうち14万世帯程度がJCN中野経由でテレビ放送を視聴しているようだ。

デジタル放送に変更するとき,受信者も相応の負担が必要

写真2 中野区内に掲示されている説明会案内
写真2 中野区内に掲示されている説明会案内
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 2009年7月と8月,区内で実施される会は,地域センターを中心に本庁などで合計60回に上る予定となっている。筆者は7月29日に中野区役所で開催された19時スタートの会に出向いた。参加者は20名程度である。この日の13時半スタートの会は,参加者が130人を超えるという盛況ぶりだったという。やはり,テレビ放送がこのままでは視聴できなくなるという理解が一般に浸透し始めた証拠ではなかろうかと感じた。

 会場には,地デジ受信用薄型テレビとUHFアンテナ,アナログ・テレビなどが展示されていた。会における質問の内容を見ると,参加者の関心は「画質うんぬん」などよりも,「アナログ放送がなくなったときにアンテナのコストを誰がどう負担するのか」,「ケーブルテレビで視聴している場合に,完全にデジタル化された場合の利用料がどうなるのか」といった金銭的な事柄に向いていたように思う。

 質問の回答にはJCN中野の職員も立ち会った。税込みで月額525円という利用料で,「地上デジタル放送の再送信サービスがあるのは全国的にも格安な料金である」と説明された。ただしこの説明が参加者が納得したかは判然としなかった。

 ケーブルテレビ受信が普及している地区で,デジタル再送信が有料で提供される場合,アナログ放送では原因者が負担していたシステムが,デジタルに変わるとなぜ有料になるのか,その根拠や説明責任が今後重要となっていくのではなかろうか。

 そもそも「テレビ放送の個別受信であっても,風雨による経年変化などにより,数年から10年に1度程度はアンテナを取り替える」という考え方に立っている。総務省など行政サイドが考える概念でも,「個別受信でアンテナを建てて放送を受信している場合に,定期的なメインテナンス・コストが発生している」ということが前提になっている。