最後の授業 ぼくの命があるうちに DVD付き版
著者:ランディ・パウシュ,ジェフリー・ザスロー
翻訳:矢羽野 薫 出版社:ランダムハウス講談社
価格:2194円(税込)
ISBN:978-4270003503

 ベストセラーになっているので,すでに読んだことのある人も多いだろう。

 カーネギーメロン大学でバーチャルリアリティの研究を行っていたランディ・パウシュは昨年秋に「最後の授業」を行った。癌が転移し,回復の見込みの無いことを知らされていた彼は家族と残された時間を大切に過ごすことを決めるとともに,自分の姿を将来成長した子供たちに見てもらえるようにするため,「最後の授業」を行う。その模様はYouTubeを通じて世界に配信された。また,ビデオに残されたその模様は彼の希望通り,将来彼の子供たちが見ることになる。

 今年,7月25日に彼は他界したが,彼に送られた多くの研究者の言葉などを見ると,彼がいかに多くの人に多大な影響を与えたかがわかる。グーグルも彼に対して追悼の意をホームページ上やブログで表していた。

 この本は彼の最後の授業の記録である。死が具体的に間近に迫っているのに,その悲壮感を感じさせないところなどに,彼の精神力の強さや科学者としてのアプローチなどを見ることができるが,それよりも彼のメッセージはわれわれ一人ひとりに「生きることは何なのか」を突きつける。彼の場合は3カ月から6カ月という死へのタイマーがいきなり動き出し,日々カウントダウンが始まるという状況になったのだが,実はわれわれのタイマーもすでに動いている。人によって,それがビジブルであったり,インビジブルであったり,10年単位であったり,1年以下であったりすることはあるだろうが,タイマーは皆動いており,カウンターは毎日1つずつ減っている。

 彼のメッセージは極めてシンプルだ。「夢は何か?」,「夢を追い続け,楽しんでいるか?」。

 以前勤めていた会社でも普段は厳しい(米国本社の)幹部が,「朝会社に来て,仕事が楽しくなかったら,それは何かが間違っている。すぐに修正しなければいけないものだ」と言っていたのが記憶に残る。また,スティーブ・ジョブズによるスタンフォード大学の卒業式典でのスピーチも名スピーチとして知られているが,彼もそのスピーチの中で言っている。「今日が人生最後の日だったら,今日予定されていることは自分の本当にしたいことだろうか」。また,彼はこうも言う。「限られた時間をほかの誰かではなく,自分のために使え」と。

 ランディも楽しく,夢を実現すること,そのための彼が学んだことを,彼の子供に伝える。彼の子供へのメッセージを聞かせてもらえたわれわれはなんと幸運だろう。彼の残された子供は彼の肉親としての子供だけではない。彼の教え子,彼の残したプロジェクトを継続するメンバー,同僚などなど。さらには,彼と直接の面識のない多くの人も彼から影響を受けた一種の子供だろう。

 まだ読んでいない人は,是非読んで何かを感じて欲しい。YouTube上のビデオは日本語字幕入りもあるので,こちらもお勧めだ。

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