米Microsoftは米国時間2009年8月14日,同社主力製品「Word」の販売差し止めを命じた判決を不服として,米テキサス州東部地区連邦地方裁判所に対して緊急の申し立てを行った。同地裁のLeonard Davis判事は判決で,同社のWordがカナダのソフトウエア会社i4iの特許を侵害していると認定し,約2億9000万ドルの賠償金の支払いと,60日以内のWordの販売差し止めをMicrosoftに命じていた(関連記事:Microsoftに裁判所がWordの販売差し止め命令,XMLに関する特許侵害で)。

実際に販売中止となる可能性はほとんどなし

 今回の判決は世界中の注目を集めたが,法律専門家らの話によると,同社が実際にWordの販売を中止せざるを得なくなる可能性はほとんどないという。法的,技術的な回避策はたくさんあるし,今後同社が控訴すれば,その審理に時間がかかることも考えられ,販売停止の期限を1年半は先延ばしできる。

 カスタムXMLに関する特許を侵害しているとして,小企業のi4iがMicrosoftを訴えたのは2007年のこと。「Word 2007」「同2003」「.NET Framework」「Windows Vista」といった複数のMicrosoft製品に,同社の特許と重複する機能が含まれていると主張した。しかしDavis判事は,Wordのみがi4iの特許を「不当に侵害している」と認定。現状での同製品の販売を60日以内に停止するよう命じたが,既に市場に出回っている製品の修正は求めなかった。

Microsoftの弁護団が判事と対立

 法廷劇さながらの一幕もあった。2億9000万ドルの賠償金のうち4000万ドルは,Microsoftの弁護団に向けられたものだった。審理の中で弁護団に不法行為があったとDavis判事は認定したのだ。Microsoftの弁護団は,i4iは「特許を実施していない特許所有者」であると主張し,したがってi4iが損害賠償を求めるのは「不当」だと述べていた。また,弁護団の1人が,「i4iの特許侵害の訴えを米国の金融危機になぞらえ,i4iがあたかも緊急財政支援を求める銀行であるかのように述べた」ことに関しても,判事は訓戒を行った。

 Davis判事は判決の中で,「こうした主張は繰り返し行われ,法的に不適切であり,裁判所の指示を直接侵害するものである。したがって,Microsoft側の不法行為は賠償金増額の理由となる」と述べている。

 Microsoftは,i4iの特許は無効であるし,いずれにせよWordは特許を侵害していないとの主張を変えていない。判決に控訴の意向を示している同社だが,今回の緊急申し立ては,Wordの実際の販売差し止め期限をさらに伸ばすことを目的とした応急措置だと考えられる。