違法音楽配信の撲滅に向けた根本的な解決策の検証を進めるために,音楽の権利者団体や携帯電話事業者は携帯電話機向けの実証実験に取り組む作業が進んでいる。業界関係者によると,2009年内に日本レコード協会や携帯電話事業者,総務省など関係者が内容を協議し2010年度にも実験を開始するという。

 この違法音楽配信対策の実証実験は,総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の第一次提言案に盛り込まれている違法音楽配信対策の内容を受けたものである。提言案には日本レコード協会が中心となってまとめた対策手法が,具体例として記載されている。このため,実証実験でも日本レコード協会が中核のメンバーになりそうだ。

 この違法音楽配信対策は,携帯電話機に違法音楽ファイル識別機能を実装する形を想定している。違法音楽ファイルの判定方法は2段階になっている。まず携帯電話のユーザーが音楽ファイルをダウンロードする際に,携帯電話機に実装したソフトウエアが,正規音源に関するデータを持つサーバーと通信して,正規音源から作成された音楽ファイルか個人が作成した音楽ファイルかを判断する。並行して,音楽ファイルが携帯電話事業者から提供されたエンコーダー(符号化装置)でエンコードされているかもチェックする。1段階目で正規の音源から作成されたと判定され,さらに携帯電話事業者が提供していないエンコーダーで作成されたと判定された音楽ファイルを,違法音楽ファイルと識別するというものである。

 2010年度に実証実験が行われたとしても,すぐに実環境で適用するにはまだ解決すべき課題も多い。例えば携帯電話機に実装するソフトウエアや照合システムの開発コストの見極めや,コストを誰が負担するのかという課題がある。照合するシステムの運用を誰が請け負うのかも決めなければならない。ユーザーが違法音楽ファイルをダウンロードする場合,ダウンロードを禁止する仕様にするか,もしくは警告にとどめるかも決めなければならない。

 この仕組みを適用するのに時間がかかることも課題である。現在利用されている携帯電話機に適用させることは現実的でないため,今後出荷される携帯電話機に実装することになるが,現在携帯電話機のメーカーが設計している携帯電話機は2年後の機種であることが多い。実装した携帯電話が出回るのは早くても2年後であり,携帯電話機の買い換えサイクルを3年に1回と考えると,ユーザーに行き渡るには5年かかることになる。