IT技術者は、自らを取り巻く環境の変化に対応し、身に付けるべきテクノロジを選択しなければならない。そのための羅針盤になることを目指し、情報サービス産業協会(JISA)が作成するのが、情報技術マップである。今回は、保有技術のポートフォリオ評価に有用と考えられる可視化表現「ライフサイクルマップ」を紹介する。

 JISA情報技術マップ調査委員会では、時系列での分析の有効性を重視し、2006年度から「ライフサイクルマップ」を基礎地図として採用している。保有技術のポートフォリオ評価に有用と考えられる。以下では、ライフサイクルマップによって、各要素技術の普及度・成熟度を俯瞰する。

 企業がIT投資を考える時や技術者個人が今後どのような技術を習得していくべきかを考えるとき、対象となる要素技術が、登場から間もなく研究・改良の余地がまだ大きい場合と、すでにコモディティ化し代替技術が登場し始めている場合では、そのスタンスは当然異なってくる。

 ライフサイクルマップは、情報技術マップ調査委員会がこれまでに実施した過去5年間の時系列データを分析したものだ。それぞれの要素技術が、技術の発展段階のどのステージにあるかを明らかにする。

クラウドやWiMAXなどの新技術が登場

 図1が、「技術のライフサイクルマップ」である。2008年12月に実施したアンケートの回答から、縦軸に着手意向(当該技術のスキル獲得に取り組む)を、横軸に実績指数(当該術のスキル獲得にすでに取り組んでいる)を横軸に、ITディレクトリの全要素技術をプロットした。

図1●要素技術のライフサイクル
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 全体的に見ると、グラフの左上方から右下方に向けて、斜めに分布していることが分かる。ライフサイクルマップ上では、比較的新しいクラウドコンピューティングやWiMAXなどは左上に、商用データベースやWindows系サーバーなど多くのSI(システムインテグレーション)案件で使われている技術ほど右下に登場する。

 前回までの調査で、新しく登場した要素技術は一般的に、表1のように動いていくことが経験的に分かっている。要素技術のライフサイクルは4つの領域の境界線の交点を中心に、円を描くように推移すると仮定できる。ちなみに「衰退期」とは、「今後、利用されなくなり市場から消えていく」という段階ではなく、「一定の範囲内では実績もあり重要視されるが、一斉に注目を集めたり利用範囲が爆発的に広がったりはしない」という段階だと、情報技術マップ委員会では定義している。

表1●要素技術のライフサイクルステージ
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 そのため、ある要素技術に着目するとき、その技術がライフサイクルマップ上で過去からどのように推移しているかを経年的に確認すれば、現在の普及状況と今後の進展の可能性を判断できることになる。情報技術マップ調査委員会では、交点からみた傾きの変化を各要素技術のライフサイクル進行度として読み取り、要素技術ごとにライフサイクルステージを一覧表に表している。

 なお今年度から、「(仮)衰退期」を便宜上設けている。これは各要素技術が必ずしも研究期に始まって普及期・安定期、衰退期と推移していくものではないためだ。研究期から普及期に至らずに衰退期の境界を推移する実状を踏まえ、マップの可読性向上を図るための対応である。

 技術者がこれから習得すべき技術を見定める、あるいはITベンダーがある技術への取り組みを検討する際は、ライフサイクルマップに見られるような技術の状況を踏まえたうえで、適切なスタンスでの判断を望みたい。