アクセンチュア IFRSチーム
経営コンサルティング本部
財務・経営管理 グループ シニア・マネジャー
末永 宣之

 2009年3月末に,多くの上場企業はJ-SOX(日本版SOX法,内部統制報告制度)の適用初年度を迎えました。IFRS(国際会計基準)の適用は,J-SOXへの取り組みに大きな影響を与えると考えられます。

 J-SOXのもと,企業は適切な財務報告を行うために必要十分な内部統制を構築・運用する必要があります。IFRSが適用されても,この点は変わりません。

 しかしIFRSの適用に伴い,業務プロセスや情報システムの見直しが発生すると考えられます。全社的統制やIT全般統制を含め,これまで整備してきた内部統制の仕組みを生かしつつ新たなプロセスやシステムに対応させることで,財務報告プロセス全体を適切に維持・管理する必要があります。

内部統制の観点で業務プロセスや情報システムを見直す

 IFRSの適用に伴い,業務プロセスや情報システムを改編した際に,J-SOX対応の観点でどのように見直せばよいのでしょうか。ポイントを,(1)原則主義,(2)公正価値による評価,(3)グローバル,という3つの特徴から説明します()。

図●IFRS対応による内部統制への影響例
図●IFRS対応による内部統制への影響例
作成:アクセンチュア

(1)原則主義

 IFRSでの会計処理基準は,原則主義に従って整備されます。例えば,リース会計については,現在では会計原則の条文に従ってリース区分を確認するよう会計処理基準を定め,業務プロセスを設計してます。IFRSになると,自社の会計処理基準および契約の性質に基づいてリース区分を判断するようになります。

 これに伴い,経理部門はIFRSの原則を解釈し,自社の会計処理上の判断基準を明確化する必要があります。業務部門は,自社の会計処理基準に基づいた判断基準を業務プロセスに正しく組み込んで文書化することが求められます。また,業務プロセスを評価する部門は,IFRSの原則を理解し,取引が「原則通り」と解釈できる業務プロセスに沿っているかを評価する力を備えることが必要です。

(2)公正価値による評価

 公正価値による評価のプロセスについては,将来キャッシュフローを見積もるための元データの確からしさや,情報の作り方を見直す必要があります。

 例えば,IFRSでは減損の戻入を認めています。減損テストを実施して会計処理するためには,減損の戻入判定基準,将来キャッシュフローの再計算モデル,過年度の減損データの管理方法などを整備することが必要です。

 J-SOX対応の観点では,一連の業務プロセスや情報システムを改修した場合でも,正確かつ妥当なデータを使ってミスなく会計処理を実行することを担保しなければいけません。このため,内部統制文書の改修および整備・評価(設計評価・運用評価)が必要となると考えられます。

(3)グローバル

 IFRSはその名の通り,グローバル標準の会計報告基準です。IFRS適用を機に,グローバル規模で決算内容のレビューやモニタリングなどの業務を標準化し,決算の早期化を図る企業が出てくると予想されます。その際に,グローバル・シェアドサービス・センターで業務を集約し,決算の効率化に取り組む企業もあるでしょう。

 こうしたグローバル対応の際には,グループ連結決算プロセスを見直すとともに,リスクの発生個所や統制項目を見直す必要があります。

影響が大きい決算・開示プロセス

 業務プロセスの中で,IFRS適用による影響が最も大きいのは,J-SOXにかかわる決算・開示プロセスでしょう。IFRS適用に伴い,業務量が増加すると考えられます。

(1)連結対象範囲が拡大

 IFRSでは,連結対象範囲が実質支配基準に変わります。このため,新たに開示対象となる連結子会社からの情報収集や伝達体制の整備が急務となります。

(2)開示情報が増加

 IFRSを適用すると,自社で採用した会計処理方針や公正価値見積もりの根拠となる将来キャッシュフローの妥当性,セグメント情報(管理会計情報)など,開示が必要な情報が項目・量ともに大幅に増えると予想されます。増加した分の開示情報の正確性や妥当性について,内部統制の文書化および評価が求められます。

(3)並行開示が必要

 IFRS適用にあたり,日本基準とIFRSの並行開示期間中は両基準で内部統制を評価しなければいけません。このため,一時的に業務量が増加すると予想されます。

 IFRSの適用を効率的に進めるためには,内部統制の見直しを含めた入念な計画を立てるのはもちろん,経営者をはじめ内部統制にかかわるすべての関係者が,IFRSのコンセプトを正しく理解することが必要になります。