アクセンチュア IFRSチーム
経営コンサルティング本部
財務・経営管理 グループ シニア・マネジャー
平田 弘毅

 IFRSの特徴の一つとして挙げられる「公正価値(Fair Value)」は,活発な市場価格に基づく「時価」を意味していると言えます。定義自体は日本基準とほぼ同じですが,市場価格がない場合の測定方法や開示方針などが異なります。

各資産・負債の公正価値の測定基準を定義

 IFRSでは公正価値を「取引の知識がある自発的な当事者の間で,独立第三者間取引条件により,資産が交換される価額」と定義しています(IAS第39号)。独立第三者間取引とは,特別の利害関係がない当事者同士が行う取引を指します。このことから,公正価値は活発な市場における価格に基づく時価を意味しているとみなせます。

 しかし,活発な市場が存在するのは株式や債券をはじめとする一部の金融商品だけです。他の多くの資産および負債には活発な市場が存在していません。その場合,公正価値をどのように測定すればよいのか,という問題が生じます。

 そこでIFRSでは,各資産・負債の公正価値の測定基準を基準書で定義しています。いくつか例を挙げます。図1は金融商品の減損を示したものです。

図1●公正価値評価が必要となる金融商品の測定基準(IAS第39号)
図1●公正価値評価が必要となる金融商品の測定基準(IAS第39号)

 図2は,投資不動産の例です。

図2●投資不動産の当初認識後の測定基準(IAS第40号)
図2●投資不動産の当初認識後の測定基準(IAS第40号)

 図3は,資産の例です。

図3●減損損失の測定基準(IAS第36号)
図3●減損損失の測定基準(IAS第36号)
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 活発な市場がない場合には,図1~3のような測定基準に基づいた評価方法を使って,公正価値を算定することになります。その際に利用する数値・評価モデルには,客観性や合理性が求められます。どのようにしてアカウンタビリティ(説明責任)を果たすかが実務上の課題になります。

 公正価値測定に関しては,IASB(国際会計基準審議会)が「公正価値測定に関するガイダンス」の公開草案を出しています。「各基準書に散らばっている定義を統一する」「活発な市場がない公正価値の測定に関して補足する」「IFRSと米国会計基準との整合性を確保する(コンバージェンスの一環)」などが目的です。

 公開草案の中身は,米国会計基準で公正価値について定めているSFAS第157号とほぼ同じ内容です。資産の売却金額(出口価格)をベースとして,公正価値評価にあたり3レベルの評価技法を使用します。このことから,2010年の基準公表(予定)にあたり米国基準に沿った基準を採用するものと思われます。

日本基準における定義

 日本基準では,企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」で以下のように定義しています。「時価とは公正な評価額をいい,市場において形成されている取引価格,気配または指標その他の相場(以下「市場価格」という。)に基づく価額をいう。市場価格がない場合には合理的に算定された価額を公正な評価額とする」。

 これを見る限り,IFRSと日本基準で公正価値の定義自体はほぼ同じと考えてよいと思います。ただし,市場価格がない場合の公正価値の測定方法(合理的に算定された価額)や公正価値の開示方針については,IFRSと日本基準で異なる点があります。このため,日本企業がIFRSに対応する際には,いくつかの点に注意が必要です。

 例えば金融商品では,日本基準では有価証券とデリバティブに関して公正価値を開示する必要がありますが,IFRSではすべての金融商品について公正価値を開示しなければいけません。ほかにも,株式報酬の公正価値での費用化,前に述べた有形固定資産や無形資産の減損・再評価における公正価値の算出,投資不動産の公正価値の開示などが必要になります。これらの中には,コンバージェンスの一環として日本基準の修正により対応しているものもあります。

 こうした公正価値を算出・開示するためには,公正価値算定ルールの整備や,算出・計数取得にあたっての業務プロセスやシステムの見直しをあらかじめ進めておく必要があります。IFRSは連結ベースで報告・開示するので,子会社から情報などの取得する仕組みも必要です。

 つまり,公正価値評価への対応では,計上ルールや評価手法の整備,明細管理を主とした開示用情報基盤の整備とプロセス設計をグループ全体で進めていかなければなりません。日本の企業にとって,直近の重要な検討課題になると思われます。