経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 前回(第23回)では、私が接したことがある無責任きわまりないネット系“システム屋”について書きました。こうした新種のシステム屋が登場する背景には、インターネットやパソコンの普及があり、情報システムが個人にとっても企業にとっても身近になったということがあるでしょう。

 私が“システム屋”になった30年前と比べて時代の変化を感じます。今回は、少しばかり私自身の昔話をしたいと思います。

30畳のスペースを占める「大型コンピュータ」

 私自身がこの世界に入ったのは、大学卒業後の1979年です。私が最初に驚いたのは、その大きさでした。特別な建物の、特別なフロアに設置されたコンピュータは、まさに「大型コンピュータ」の名に値するものでした。「本体」と呼ばれるものだけで、3畳の部屋がいっぱいになる大きさです。

 それに付随して、「入出力装置」と呼ばれるものが多数あり、コンピュータ1セットを納めるには、30畳ぐらいの広さが必要でした。大型冷蔵庫のような磁気テープ入出力装置が10も20も並び、洗濯機を3つくっつけたぐらいの大きさのカード読み取り装置、それよりさらに大きいライン・プリンター、そして、航空機のコックピットのような印象を与えるコンソール装置が並んでいました。

 新入社員だった私は、「1セットが10億円以上だ」と聞いて「人間よりも大切な物かも」と思った記憶があります。実際、大量の熱を放出するコンピュータを稼働させていたマシン室の空調設定温度は真夏のスーパーよりも寒く、中で働く人間よりも機械を優先させているからだと理解させられました。

 マシン室のすぐ近くに技術者が24時間詰めている部屋があり、機械の調子が悪くなると、即座に対応できる体制がありました。高価なコンピュータを休ませるのはもったいないことから、24時間3交代のシフト勤務体制を組んでいました。

「間違った命令」を作れば大損失に

 私は入社後半年をプログラマーとして、それ以後はシステムエンジニア(SE)として経験を積んでいきました。

 “システム屋”として仕事を始めた私が、1番目に肝に命じたことは、「間違ってはいけない」ということでした。

 とにかくコンピュータは高価で貴重なのです。もし間違った命令を与えれば、間違った処理を何万回、何百万回と続け、何千ページもの帳票を印刷してしまいます。システムの設計でも、プログラムの作成でも、間違ったものを作ってしまうことは最悪であり、職場では“戦犯”扱いされてしまいます。私もプログラムを正しく完成させるまで、先輩の指導を受けながら徹夜で取り組んだことがあります。

 2番目に自分に言い聞かせた命題は、「あらゆるケースを網羅しなければならない」ということでした。本当は4通りあるケースなのに3通りだと誤解してプログラムを作ってしまうと、4通り目の事態が発生した時、コンピュータは、3通りのいずれかのケースとして処理してしまったり、途中で処理をやめてしまったりします。ビジネスの現場では普通「あり得ない」と思われるようなケースであっても、可能性がゼロでなければ、その事態に対処する方法をあらかじめ考えておかねばならないのです。

 例えば、利益率の計算は、利益を売上高で割って計算します。万が一、売上高がゼロであったならば、人間なら「利益率の計算は不要」と判断しますが、コンピュータは機械ですから処理を投げ出してしまいます。「売上高がゼロの場合は計算をせず、利益率の欄に星印を印字せよ」といった命令をあらかじめ与えておかねばならないのです。