ネイティブ方式は,トンネルを使わずにNGNがユーザーとインターネットの間でやり取りするIPv6パケットを転送する。ただし,NGNとISPは直接つながらず,3社のネイティブ接続事業者が間に入る。ユーザーのIPv6アドレスは,3社がそれぞれ独自に取得したアドレス・ブロックから払い出す。
このほか,ネイティブ方式のIPv6インターネット接続を利用しないNGNユーザーも,NGN内に閉じたIPv6通信を利用する。そうしたユーザーには,NGNのアドレス・ブロックからIPv6アドレスを払い出す。つまり,ネイティブ方式では全部で4個のアドレス・ブロックを使う。
網内折り返しで最適ルーティングを実現
ネイティブ方式では,ユーザーとインターネットの間でやり取りするIPv6パケットがNGN上で直接転送される。その転送の仕方は,大きく二つに分けられる。一つは,同じネイティブ方式のユーザー同士で通信する場合。もう一つは,通信相手がネイティブ方式以外で,インターネット上にいる場合である(図1)。
ネイティブ方式を選択したISPのユーザー同士がIPv6パケットをやり取りする場合,そのパケットはNGNの内部に閉じてルーティングされる。ユーザーの地理的距離にかかわらず必ず網終端装置で折り返すトンネル方式に比べ,ユーザー間の最適経路でパケットを転送できるネイティブ方式は大幅に効率が高い。ネイティブ方式を推すNECビッグローブの基盤システム本部 岸川徳幸統括マネージャーは,動画などのトラフィックが急増する今後,こうした網内折り返しを利用した効率的なルーティングが重要となると主張する。
その半面,トラフィックの大半がNGNに閉じることで,ネイティブ接続事業者が独自のポリシーで運用できる余地が狭められるという問題点もある。
外部へはソース・ルーティングを利用
一方,通信相手がネイティブ方式のユーザー以外の場合は,ネイティブ接続事業者を経由してインターネットに出る。例えば,通信相手がトンネル方式やNGN以外のアクセス回線を利用するユーザー,あるいは海外のサーバーの場合である。
この場合,ユーザーが送り出したIPv6パケットは,そのユーザーのIPv6アドレスを払い出したネイティブ接続事業者を必ず経由するように転送する。例えば,ネイティブ接続事業者Aが払い出したIPv6アドレスを持つユーザーがIPv6パケットを送り出す場合,そのパケットは必ずネイティブ接続事業者Aを通るようにルーティングされる。このように,送信元IPアドレスで転送先を決めるルーティング手法を「ソース・ルーティング」と呼んでいる。
3社制限はルーターの性能が原因
ネイティブ接続事業者が3社という制限は,NGN内の各ルーターの経路情報の処理能力による技術的な制約によるものとNTT東西は説明する。回線やルーターの障害などでNGNの接続構成が変わると,NGNの全ルーターは新たな経路情報に基づいて経路の再計算処理を実施する。この計算量は,アドレス・ブロックの数に比例する。
アドレス・ブロックの数が4個よりも大きい場合,経路の再計算にかかる負担がルーターの処理能力を超え,ひかり電話のQoS処理を圧迫して通話が切れる恐れが出てくるという。このため,アドレス・ブロックは最大4個となった。NGNが1個分を使うので,残り3個がネイティブ接続事業者の利用可能なアドレス・ブロックとなる。
この3社制限は,多くのISPが疑念を抱く点だ。「ルーターやスイッチの性能は年々に上がっている。将来登場するルーターでも3社しか対応できないというのか」(ドミルの笹田亮取締役)。「そもそもネイティブ接続事業者が3社に限られるというのがおかしい。第一種指定サービスで接続義務があるのに,接続を制限することになるからだ」(エディットネットの野口尚志代表取締役)。
ネイティブ接続事業者に申し込んだ候補が4社以上の場合,3社を選択する必要がある。その選択方法は,ネイティブ接続事業者のローミング・サービスを利用するISPのユーザー数(既存のIPv4インターネット接続の利用者)の合計の上位3社を選ぶ,というものだ。ただし,ネイティブ接続事業者に立候補したISP自体のユーザーは計算に入らない。
しかし,こうした選択基準についても,ISPからは疑問の声が上がっている。例えばユーザー数については,「複数のローミング・サービスを利用しているユーザーもいて重複してカウントされることもあり得る」(JAIPAの立石聡明副会長)。ネイティブ接続事業者の候補が自身のユーザー数を計算に入れない点についても,「ISPが別の事業子会社を作って申し込ませれば,実効性は無い」(立石副会長)。