トンネル方式で最も重要な役割を果たすのは,ユーザー宅内に新たに置かれることになった「アダプタ」だ。アダプタにはトンネル方式のIPv6通信を実現する機能が搭載され,トンネル方式の仕組みの要となる。ISPにとっては,ユーザーに負担を強いる可能性のある厄介な存在であり,そのコストがどうなるのか気になるところだ。
トンネルとNATを使い分ける
トンネル方式では,大きく二つのIPv6通信がある。一つはインターネット通信,もう一つはNGN通信である(図1)。前者を実現する機能は「PPPoEトンネル」,後者を実現する機能は「NAT」である。どちらの機能でもアダプタが重要な役割を果たす。
インターネット通信の場合,ISPのIPv6アドレスが割り当てられたユーザー端末とISP網の間でIPv6パケットをやり取りする必要がある。この際,アダプタとIPv6用網終端装置の間にPPP(PPPoE)のセッションを確立し,その中をIPv6パケットを通す。
同一ISPのユーザー同士がインターネット上で通信する場合でも,必ず網終端装置のトンネルから出て折り返す。トンネルを提供するNGNは純粋なアクセス網として機能し,そこを出たところからインターネットになるためだ。それは同一ISPのユーザーでも変わらない。たとえ隣の家でも網終端装置で通信が折り返される。
一方,NGN内に閉じた通信の場合,ISPのIPv6アドレスを持つ宅内端末が送り出したIPv6パケットは,そのままではNGNで正常に通信できない。返信時のあて先がISPのIPv6アドレスとなり,その経路情報を持たないNGN内で正しくルーティングできないからだ。
そこで,宅内端末がNGN内と通信する場合は,ISPが配った送信元IPv6アドレスを,NGNが配ったアドレスへと付け替える変換処理が必要となる。逆にNGN側からユーザー宅にIPv6パケットが返信されてくるときも,同様の変換処理が必要だ。これらの処理もアダプタが行う。
IPv6ルーターの基本機能を備える
基本的な機能としては,アダプタはIPv6対応のブロードバンド・ルーターになる。そのため,IPv6に関する基本機能を搭載している。
その中でも重要なものの一つが,IPv6アドレス周りの機能である。これには,(1)上位のネットワークからIPv6アドレスのプレフィックスを受け取る機能,(2)それを配下の宅内端末に配る機能――の二つがある。
(1)については2種類のプレフィックスがある。一つはNGN側のプレフィックス。これはNGNとの通信や,NGN内に張るトンネルの終端に使うIPv6アドレスに利用する。もう一つのプレフィックスは,PPPoEセッション経由でアダプタに配布される。
(2)については,NGN側のプレフィックスは無視し,トンネル経由で割り当てられたISPのプレフィックスを配下の端末に配る。配下の端末では,配布されたプレフィックスと端末自身で生成した値(インタフェースID)を合わせ,IPv6アドレスを作る。
NTT東西の運用上の課題を解決
当初,トンネル方式を実現する機能はホーム・ゲートウエイ(HGW)に搭載される予定だったが,それらの機能はアダプタに実装されることになった。
新たにアダプタを外付けにしたのは,「HGWを利用するユーザーがトンネル方式を使っているかどうか,我々で把握する必要が出てくるから」(NTT東日本 ブロードバンドサービス部サービス開発担当の松林泰則担当部長)という理由がある。例えば,エンドユーザーがネイティブ方式のISPとトンネル方式のISPの間で乗り換えた場合,そのISPとユーザーの契約をNTT東西が把握しなければならず,さらにその都度HGWの交換が必要となる。実際に検討するとそうした手間が膨大となり,運用が難しいことが分かったという。
注目されるアダプタの価格
アダプタのコストは,NTT東西とJAIPAの協議の中で,NTT側が「1万~1万5000円」という数字を挙げたとされる。ただし,NTT東日本によると,アダプタの額がどのくらいになるかはまだ決まっていないという。
提供形態としては,まずNTT東西がレンタルまたはユーザー買い取り形式で提供することが想定されている。また,仕様を公開し,ベンダーが量販店で市販できるようにもするという。
アダプタの技術仕様を見ると,いくつかの新機能が追加されるにせよ,基本的にはIPv6対応ブロードバンド・ルーターがベースである。新機能自体もそれほど複雑なものではない。数千円という既存のブロードバンド・ルーターと比べて,価格はそう高くはならないはずだ。
ただ,低価格とはいえユーザーにとって負担が増えるのは抵抗感がある。NTT東西がどのような額を出してくるのか,ISPは注目している。